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米国債利回りが予想外の急低下、これは何かの前兆なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 7日に公表された6月のFOMC議事要旨では、テーパリングの議論を始めた一方で、政策変更には複数の参加者が忍耐強くあるべきと強調したことが示された。テーパリングの議論開始は想定内と捉えられてか、7日の米債は買い進まれ、10年債利回りは一時1.29%と1.3%割れとなった。8日はさらに米債は買い進まれ、10年債利回りは一時、1.25%をも割り込んだ。

 米10年債利回りは3月末に1.7%台に上昇したが、ここでいったんピークアウトした。昨年8月あたりをボトムとした米10年債利回りの上昇相場は調整局面を迎えた。

 欧州の国債もここにきて買い進まれている。8日のドイツの10年債利回りはマイナス0.30%に低下した。これに対してドイツの10年債利回りは昨年12月のマイナス0.6%台がボトムとなって上昇トレンド入りし、今年5月にマイナス0.1%近くまで上昇した。ここでピークアウトした。

 両者ともに上昇トレンドが完全に崩れたわけではない。しかし、ここからさらに低下してくると、チャート上はトレンドが崩れてくる可能性がある。米債はその懸念が強まりつつある。

 欧米の国債利回りの低下を受けて円債も買われてきた。8日に10年債利回りは一時0.020%に低下し、ゼロ%も意識される水準をつけてきた。

 8日の債券先物は152円17銭と寄り付きこそ売られたが、その後急速に切り返し、152円44銭に上昇した。ここにきてこのような動きはあまりみたことがない。

 今回の米国債を中心として国債利回りの予想外の低下はいったい何に起因しているのか。

 新型コロナウイルスのデルタ変異株の急速な感染拡大が経済成長や金融政策の正常化を遅らせる可能性が意識されたとの見方はある。日本政府が8日に東京都に4回目の緊急事態宣言を発令し、東京オリンピックは1都3県のすべての会場で観客を入れずに開催されることになったこともそれを象徴する出来事かもしれない。

 しかし、日本の債券先物の動きをみても、動きに変化が出てきたことも確かである。これまでの動きとは異なっている。あらたな手口が入ってきている可能性はあるものの、改めてリスク回避のような動きが出ているともいえる。

 米国債の利回り低下もスティープ化を見越した反動という側面もあったのかもしれないが、これがもしリスク回避の動きであったのであれば、今後の米国株式市場などがあらためて動意を示してくる可能性もある。9日の東京株式市場の動きも気になるところか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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