日本の長期金利の調整が大幅に遅れ、その反動が大きくなる懸念も
長期金利は本来、経済実態に応じて動くものとなる。もちろん、それだけでなく需給やテクニカルに応じて動く。
教科書的には景気が回復し、物価が上昇するとなれば、長期金利は上昇する。これが普通の姿であり、金利が上昇することで、設備投資のオーバーヒートなどを抑えることになる。それによって景気の過熱を抑えるような仕組みとなっている。景気が悪化し、物価が下落基調となれば、長期金利は低下する。これによって設備投資などを後押しするような格好となる。
たとえば、2日に発表された米国の3月の米雇用統計では、非農業雇用者数が前月比91.6万人増と市場予想の65万人増程度を大きく上回り、昨年8月以来の大幅な増加となった。これを受けて米国の景気の回復が意識され、米長期金利は上昇した。
長期金利はこのようなファンダメンタルズと呼ばれるものによって市場参加者の思惑も加わり、先んじて動く習性を本来持っている。米雇用統計を受けてFRB予想よりも早期に利上げに動く可能性があるとの観測も背景にあった。
短期金利は中央銀行が物価の安定のために操作して誘導するが、長期金利は市場参加者の思惑によって市場で形成され、揺れ動くことにより、より適正な水準を模索することになる。
長期金利(10年国債の利回り)に影響を与えるものとしてのひとつに国債の需給がある。国債の需要側としては本来、国内の金融機関などがどれだけ国債へのニーズがあるのかに応じて計られる。これに対して供給側としては国がどの程度、国債を発行するのかによって左右される。
本来、長期金利は株式や外為などと同様に市場で形成され、参加者の思惑で値が動く。その市場心理は債券先物のチャートなどで示されることで、テクニカル分析も可能となる。つまり先行き予測に応じて、市場参加者が動きやすくなる。
以上がある意味、教科書的な見方であるが、現在はこれらがすべて日銀の大規模な金融緩和政策、「長短金利操作付き量的・質的緩和」と呼ばれるものによって抑えられてしまい、市場参加者は身動きができない状態にある。正確には日銀が身動きが取れなくなり、米国のような中央銀行の金融政策の先行きを読んだ動きが日本では起きにくくなってしまっている面もある。
世界的なリスクが蔓延している最中であれば、リスク回避による国債買いという動きによって長期金利が抑えられる。この状況であれば、一見、長期金利が押さえ付けられているという債券市場の異常さは感じられないかもしれない。
しかし、リスクが回避され、あらためて景気が回復し、物価が上昇する兆しが出て、そのなかにあって国債の巨額の発行が続くという状況は、本来であれば、長期金利の上昇によってそれらが調整されるべきものである。
長期金利の上昇を無理矢理に押さえ込んでしまうと、その反動がいずれ大きく出てくる可能性を強めることにもなりかねない。ファンダメンタルズや需給に応じた長期金利の調整が遅れればおくれるほど、跳ね上がるエネルギーが蓄積されることもありうるのである。