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日銀はデジタル円の実証実験を開始

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 日銀の黒田総裁は16日のFIN/SUM(フィンサム)2021における挨拶のなかで、中央銀行デジタル通貨(CBDC)についても言及した。

 「最後に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)について、一言触れておきたいと思います。日本銀行では、昨年10月に中央銀行デジタル通貨に関する取り組み方針を公表したあと、この方針に沿って、実証実験に向けた準備を進めてきました。この春からはいよいよ実験を開始する予定です」(日銀のサイトにアップされた挨拶文より)

 日銀による中央銀行デジタル通貨の実証実験は、3段階に分けて行われる。令和3年度の早い時期に始めるとしている第1段階の実験では、発行や流通といったCBDCの基本機能に関する検証を行う(1月19日付SankeiBiz)。

 これが第一段階となる。これがこの春から開始される。第1段階の実験を1年程度行った上で行われる第2段階では、保有金額に上限を設定できたり、通信障害といった環境下でも利用できたりするかなど、通貨に求められる機能を試す。第2段階の具体的な期間については明らかにしていない。第3段階では実際に民間事業者や消費者が参加して、実用に向け実験を行う計画となる。

 黒田総裁は、日本銀行として、現時点でCBDCを発行する計画はないとの考え方に変わりはないとしている。しかし、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要であると考えているとも指摘した。

 カンボジアの中央銀行は昨年10月に、中央銀行デジタル通貨システム「バコン」の運用を開始した。カリブ海の島国バハマでも本格的な運用が始まった。中国も昨年10月に、ハイテク都市の深センを皮切りにデジタル人民元の大規模な実証実験をスタートさせた。

 さらに中国は、中央銀行が発行するデジタル通貨をめぐり国境をまたぐ決済システムの研究を加速すると2月25日に日経新聞が報じた。

 デジタル通貨については、取引情報や個人情報の保護といった課題が存在する。それとともに、個人や企業の決済や取引を記録することも可能になり、脱税やマネーロンダリングを防止しやすい利点もある。

 日銀による中央銀行デジタル通貨は、日銀に個人が口座を設けてすべて直接管理する方式ではなく、既存の金融機関が個人との間でデータをやり取りし、金融機関と日銀でデータのやり取りをするなど二段階方式で行われるようである。今後、実証実験を経て、それが活用される可能性はある。しかし、資金の流れが透明化されることを嫌がる人たちもいるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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