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中央銀行のトップが米国では財務長官、イタリアでは首相になるのか、日本では昔、日銀副総裁が首相に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 イタリアのマッタレッラ大統領は3日、欧州中央銀行(ECB)のドラギ前総裁と会談した。コンテ前首相の再任を目指して進められていた各党の連立協議が失敗。大統領は新政権樹立へドラギ氏を首相候補に指名する可能性があると伝えられた。その後、マリオ・ドラギ氏は、マッタレッラ大統領からの組閣要請を受諾したと報じられた。

 大統領が首相候補に指名すれば、ドラギ氏は各党と組閣に向けた協議を始めるとみられる。組閣に失敗すれば、大統領が議会を解散し、総選挙になる可能性もまだ残るとか。

 まさかここでマリオ・ドラギ氏の名前が挙がるとは思わなかった。ドラギ氏は前ECB総裁、つまり欧州中央銀行のトップだった人物である。

 ドラギ氏といえば、学者出身だったかなぐらいの記憶であったので、あらためて経歴を確認したところ、かなり多様な経歴を持っていた。

 フィレンツェ大学での教授、世界銀行のエクゼクティブ・ディレクター、第7次アンドレオッティ内閣で経済財務省総務局長となり、電気通信事業のテレコム・イタリアを手始めに大規模な民営化を実施していた。コーポレートガバナンスを規定した法律の立案にも関わり、ドラギ法という名前で知られているとか。その後、ゴールドマン・サックス副会長、そしてイタリアの中央銀行総裁に就任し、2011年11月にトリシェ総裁の後任として、第3代欧州中央銀行(ECB)総裁に就任した。欧州の信用危機に対して積極的に政策を掲げ、その危機の沈静化に貢献した人物といえる。

 総裁退任後は公の場にはほとんど姿を見せていなかった。これは前任の中央銀行総裁は後任への影響も考えてか、それほど目立つような言動は避けるという意味合いもあったのかもしれない。

 米国ではこちららも前FRB議長、つまり中央銀行のトップであったイエレン氏が財務長官となった。

 図らずも中央銀行のトップが政権の要職、もしくはトップに就任することになるのか。ドラギ氏もその経歴、さらにはその人脈等をみても首相にふさわしいように思われるが、政治家としての経験のなさがネックとはならないであろうか。

 そもそも、イタリアでの政権の不安定さが、結果として場外からドラギ氏を引っ張り出してきた要因でもあり、政権をまとめ上げる能力があるのかも試されるかもしれない。あくまでドラギ氏が首相に就任したらではあるが。

 ちなみに中央銀行のトップが政府のトップとなったケースはあるのか考えてみたところ、日本では日銀副総裁が首相となったケースが存在した。高橋是清である。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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