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2020年の金融市場を振り返る(1~3月)

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 2020年はまさに激動の1年となった。この1年を振り返ってみたい。

1月

 2020年の金融市場は波乱の幕開けとなった。米国防総省は2日、イラン革命防衛隊の精鋭組織コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官を空爆で殺害したと発表した。これを受けてイランと米国の対立姿勢が強まり中東の地政学的リスクが高まった。これに対してイラン側からはイラクの駐留米軍基地に十数発以上の弾道ミサイルを発射した。しかし、この反撃は人的被害を極力抑えようとしたものであり、イランと米国の直接の軍事衝突は避けられた。

 中東の地政学的リスクの高まりにより1月初めに原油先物のWTIは65ドル台をつけていた。その後、次第に中東情勢を巡る懸念は後退し、1月15日にトランプ米大統領と中国の劉鶴副首相は貿易交渉の第1段階合意に署名したことなども好感され、米国株式市場では1月に主要株価指数が過去最高値を更新していた。

 英国の欧州連合(EU)離脱実現に必要な離脱関連法の法案が英議会を通過し、エリザベス女王が1月23日に裁可して成立した。この後、激変緩和のため年末までは移行期間に入る。その間はEU法が適用され、EUとの新たな貿易協定締結を目指す交渉が行われた。

 これらでひと安心と思っていた矢先に、今度は中国で中国で新型のコロナウイルスによる肺炎が発生した。それが中国内に止まらず、米国や日本を含めて拡大してきた。中国国務院は、春節休暇を当初の1月30日までだったものを、2月2日まで延長すると発表した。新型コロナウイルスの感染拡大が金融市場でも材料視されはじめた。

2月

 WHOのテドロス事務局長は2月11日、新型ウイルスの感染拡大は「世界全体に非常に重大な脅威」を及ぼすとした。新型ウイルスの正式名称が「COVID-19」に決定されたことを明らかに。

 2月にギリシャの10年国債利回りが初めて1%を割り込んできた。

 2月に入り、中国の新型コロナウイルス感染は韓国やイタリアなどにも拡大し、世界経済への影響も懸念されてきた。。25日の東京株式市場では日経平均が一時1000円を超す下落となった。日本国内でもマスクなどが店頭から消えた。

 27日の米国株式市場では、ダウ工業株30種平均が前日比1190ドル安となり、一日の下げ幅としては2018年2月5日の1175ドル安を超えて過去最大を記録した。米国の疾病対策センター(CDC)が国民に対し、米国内での新型コロナウイルス流行に備えるよう注意喚起した。

3月

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍首相が3月2日から全国すべての小学校・中学校、それに高校などについて、春休みに入るまで臨時休校とするよう要請する考えを示した。

 主要7カ国(G7)の財務相・中銀総裁は、3日に緊急の電話会議を開いて対応策を協議した。電話会議後に共同声明を出し、新型コロナウイルスの感染拡大と市場や経済状況に与える影響を緊密に監視しているとした上で、「強固で持続可能な成長を実現するため、また下方リスクから守るため、すべての適切な政策手段を用いるとのコミットメントを再確認する」と表明した。

 そして、FRBは3日に17、18日のFOMCを待たず、緊急のFOMCを開き、政策金利を0.5%引き下げると発表した。タイミングはサプライズとなり、下げ幅もこれまでの0.25%ではなく0.50%とした。

 日銀も企業の資金繰りを支援するため、新たな貸し出し制度の検討を始めた。

 マスクに続いて、懸念もされていたトイレットペーパーが店頭からなくなるという事態が発生した。

 OPECプラスは6日にウイーンで会合を開いたが、会合ではサウジアラビア率いるOPEC側が、原油価格の維持のために減産強化を働きかけたのに対し、これをロシアが拒否したことで原油価格を取り巻く状況が一変した。

 9日の東京時間の朝、原油価格が急落し、WTI先物は時間外取引でも27%も下落し、一時11.28ドル安の30ドルで取引された。みたこともないような急落であった。

 9日の米国株式市場ではダウ平均が2013ドル安となり過去最大の下げ幅となった。同時に米国やドイツなどの長期金利は過去最低水準にまで低下してきた。

 イングランド銀行は10日に臨時で金融政策委員会(MPC)を開き、政策金利を0.50%引き下げ、年0.25%にすることを政策委員9人の全員一致で決定した。イングランド銀行の利下げは2016年8月以来、3年7か月ぶりとなる。

 12日の米国株式市場では一時サーキットブレーカーが発動するなど大幅な下落となり、ダウ平均は2352ドル安となり、過去最大の下げ幅をさらに更新した。下落率も10.0%と1987年10月19日のブラックマンデーの22.61%以来の大きさとなった。ニューヨーク連銀は1.5兆ドル規模の追加レポオペを実施すると発表し、資産買入も短期国債から長期国債などへも広げる策を発表した。

 12日のECB理事会では、量的緩和政策の拡大を決めた。現在月200億ユーロのペースで国債などを買い入れているが、これに加えて1200億ユーロの資産を年末までに追加購入する。さらに中小企業などに資金が行き渡りやすくするため、最低でマイナス0.75%という低利で銀行に資金を貸し付けることも決めた。

 中東のレバノンでデフォルト(債務不履行)が発生。

 FRBは15日、臨時のFOMCを開いて政策金利を1.0%下げて0.00~0.25%とした。2008年の金融危機以来の実質的なゼロ金利政策の復活となる。加えて、米国債などを買い入れて資金を大量供給する量的緩和政策も復活。今後数か月で米国債を少なくとも5000億ドル買い入れ、住宅ローン担保証券(MBS)も同じく2000億ドル購入する。

 16日の米国株式市場でダウ平均は2997ドル安となり過去最大の下げ幅をさらに更新。ナスダックは970.283ポイント(12.3%)安となり、1日の下落率としては過去最大を記録した。

 18日の欧米の金融市場の動きは、まるでゴジラが暴れ回ったかの様相となった。ニューヨーク株式市場ではサーキットブレーカーが発動し、ダウ平均は一時19000ドルを割り込んだ。通常であれば、この株安を受けてリスク回避から米債は買われるパターンが多いが今回は違った。米国債も大きく売られ、米10年債利回りは一時1.26%に上昇した。前日が1.08%であり、ここまで米国債の利回りが1日で大きく上昇するのは珍しい。この日は金(ゴールド)の先物も大幅反落となっており、外為市場ではドルが円などの幅広い通貨に対して上昇していた。これらの動きは、リスク回避ではなく、キャッシュ化(金融商品を売却し現金に戻す)といえた。

 18日夜(日本時間19日朝)に開いた臨時のECB理事会で、新たに7500億ユーロの枠を設け、2020年末までに国債や社債などを購入していくことを決めた。

 日銀は18、19日の金融政策決定会合を前倒しで開催し、1日のみの開催となった。追加緩和策を決定し、積極的な国債買入れなどにより一層潤沢な資金供給を実施すること、新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペを導入すること、CP・社債等の追加買入枠を合計2兆円設けCP等は約3.2兆円、社債等は約4.2兆円の残高を上限に買入れを実施すること、ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1800億円に相当する残高増加ペースを上限に積極的な買入れ行う。

 ドイツのメルケル政権は21日、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、1500億ユーロ(約18兆円)規模の追加予算を計上する方針を固めた。これにより、財政黒字を維持して新規の国債発行をゼロにする健全財政路線の継続は断念した。

 東京都は25日、新型コロナウイルスの感染者が新たに41人確認されたと発表した。小池百合子知事は同日夜、緊急記者会見し「感染爆発の重大局面だ」と述べ、今週末の不要不急の外出自粛を都民に要請した。

 新型コロナウイルスを巡る状況は刻々と変わってきた。中国の後、韓国やイタリアなどでの感染者数の急増が起きたが、いつのまにか感染者数の最多が米国となっていた。米国時間の26日午後3時(西海岸時刻)時点で米国の新型コロナウイルス感染者は82404例となり、中国の81789例を超え、感染者数は世界最多になった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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