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首相が替わっても日銀の姿勢には当面は変化なしか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 安倍晋三首相は、8月28日17時からの記者会見で、辞任する意向を正式に表明した。自民党は総裁選を9月上旬に告示、15日までに投開票する見通し。臨時国会は17日にも召集され、衆参両院の本会議で首相指名選挙が実施され、新首相が決定する。

 安倍首相の経済政策の呼称ともいえるアベノミクスは日銀による強力な金融緩和策が柱となっていた。日銀が大胆で次元の違う金融政策を行えば、物価は目標の2%に2年足らずで達成するというものである。

 現実に2013年4月の異次元緩和後、1年足らずで物価は前年比1.5%まで上昇した(当時の日銀の物価目標は総合であったが、除く生鮮を基準にみている)。しかし、異次元緩和1年後の2014年4月の消費増税によって、物価はそれから大きく下降し、マイナスに転じた、という説明がなされることが多い。

 もし日銀が自由に物価を動かせるという前提であったのであれば、消費増税など関係なく2%に上昇していたはずである。いくら強力な緩和策を打ち出しても、物価は日銀の政策以外の要因で大きく動く。そのひとつが原油価格であり、為替である。また消費増税も駆け込み需要や便乗値上げなどによる影響を与えてえり、プラス1.5%までの上昇は日銀緩和でなく、それらによって説明が可能となる。

 消費増税後の物価の下落も外部要因での説明が可能となる。それには確かに消費増税に伴う個人消費の低迷もあったが、そもそも日銀の異次元緩和は続いていたわけであり、それをさらに加速させる追加緩和も行っていたが、2%の物価目標は遠ざかるだけであった。

 物価目標は達成せずとも雇用は改善し、外国人観光客などの来日も急増するなどしたが、もしこれらも日銀の異次元緩和が影響していたとすればどのような経路でそうなるというのであろうか。

 結局、日銀の異次元緩和で物価は動かせなかった。そうであれば、あれほどの緩和策は必要なかったと私は思っていた。しかし、その後、結果として、日銀をはじめ各国中央銀行はやれるだけの緩和策を行わざるを得ない状況に追い込まれることになった。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がそうさせることになったのは皮肉としか言いようがない。財政も結果として拡大せざるを得なくなった。

 首相は替わっても現在の日銀の政策が変わることは考えづらい。平時であれば異次元から通常次元に戻せと言いたいところではある。しかし、すでにアベノミクスは過去のものとなってしまい、現在の日銀は物価目標達成のためというよりも、コロナ禍による景気への影響を少しでも軽減させるための緩和処置を講ずるほかはない。

 ただし、いずれ日本を含め各国は出口政策をとらざるを得なくなる。しかし、日銀はうまく出口政策を取れるのか。それも次の首相に掛かっている面はある。次の首相には日銀の出口政策に対してある程度の自由度が与えられる人になってほしいと思うが、どうもそんな雰囲気でもなさそうに思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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