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7月からの国債の増発が意識されて日本国債の利回りが上昇、日銀は国債を動かせるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日本国債の利回りがここにきて超長期債主体に上昇基調を強めている。この背景となっているのは7月からの国債の増発である。

 新型コロナウイルスの感染拡大に対応する今年度の第二次補正予算による追加の歳出は総額31兆9114億円となり、補正予算としては過去最大の規模となった。これは国債の増発によって賄われる。赤字国債は22兆6124億円、建設国債を9兆2990億円、さらに財投債が32兆8000億円発行される。

 7月1日には10年国債の入札が実施される。10年債は一回あたり先月までの2.1兆円から2.6兆円となり、5000億円もの増額となる。もちろん10年債だけでなく、2年、5年、20年、30年の国債も増加される。

 これだけの規模の増発となれば、当然ながら需給バランスが調整されることで、国債は売られてもおかしくはない。しかし、いまは日銀がいる。日銀は金融政策の一環として、大量の国債を買い入れているばかりか、イールドカーブコントロール、つまりは国債利回りも誘導しようとしている。

 日銀の買入額が非常に大きいことで、こちらも国債の需給バランスの調整を見る上で重要な要素となることは確か。このため注目されたのが6月30日の夕方に発表された7月の日銀による国債買い入れ予定となった。

 ここで日銀は中短期は買入増額の意思を示した。それは買入レンジの上方修正という形となって示された。ただし、市場が注目していた超長期については6月の予定と変わりはなかった。つまり、買入額には変更がない可能性が示された。

 これらを見て市場は日銀が国債のイールドカーブをスティープニングに誘導しようとしているのではないかとみた。このため、超長期ゾーンを主体に国債の売り圧力が掛かったのである。

 たしかに特に金融機関にとってはイールドカーブのスティープ化は望ましい。それでなくてもマイナス金利政策によって一部の金利がマイナスとなり、10年債も一時マイナスとなっていた状況では資金運用がしづらい。

 特に生保や年金など長い期間の資金運用の対象となる超長期ゾーンには、ある程度の利回りがついていないと困る状況にはあった。

 7月の国債増発と合わせ、日銀が超長期ゾーンの買入増額については慎重にみているとなれば、市場もそれを意識して動く。たしかにこれを見る限りイールドカーブコントロールはできているようにみえる。

 しかし、私自身はこれに一抹の不安を覚える。過去にも「国債の利回りは俺がコントロールしている」かのような仕掛けが入ったことがある。すでに債券の歴史に埋もれてしまった感もある89回債がその一例となる。また、「俺が方針を変えたから相場も変わる」と豪語していたチーフディーラーもいた。それは結果として相場によって痛い目をみた。

 中央銀行をそのような凄腕ディーラーたちと一緒にするなとのご意見もあるかもしれない。しかし、本来市場にて価格が形成されるものを人為的に動かすということは、少なくとも資本主義社会にあっては現実には難しいことである。国債ではないが為替を動かそうとして大きく負けた中央銀行も過去に存在した。

 本来、日銀も長期金利は市場で形成されるもので動かせないとしていたはずである。それが結果として動かせたということになるのかもしれないが、本当にこのまま動かせるものなのであろうか。市場の歴史を振り返ると、ここに一抹の不安も覚えるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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