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FRBのマイナス金利政策は避けるべき理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国の中央銀行にあたるFRBのパウエル議長は13日、米シンクタンクのイベントにおけるオンラインセミナーで講演し、米経済が前例のない下振れリスクに直面していると指摘した。

 ただ、景気の先行きは極めて不透明だとしつつも「今後1カ月が失業率の最悪期で、その後は急回復していくだろう」との見方を示した。設備投資が落ち込んだり長期失業者が増えたりすれば、生産や所得の持ち直しが遅れて「経済の長期停滞を招く懸念がある」と述べた(14日付日経新聞電子版)。

 こうした経済の長期停滞を回避するためには、追加の政策手段が求められるだろうとも強調し、追加緩和も辞さないとの見方を示した。ただし、トランプ大統領が要求するマイナス金利政策は「現時点で魅力的な政策手段とは考えていない」と否定的な見解を改めて表明した。

 トランプ大統領は13日、ホワイトハウスで記者団に対し、「マイナス金利を導入すべきだと強く信じている」と述べていた。ECBや日銀がマイナス金利政策を導入しており、ドル高修正のため、さらにはプラス圏となっている米長期金利もマイナスに引き下げたいとの意向のようである。

 すでにマイナス金利政策の効果と副作用については、FRB内でも日欧のマイナス金利政策による影響の分析などが進められているとみられる。この結果、よほどの事態が起きなければそれを導入することは考えづらい。

 そもそもマイナス金利政策は金融機関の収益を悪化させかねない。今回の新型コロナウイルス感染拡大防止のための経済活動の自粛による景気への影響はたしかに大きい。戦後最大級といっても過言ではなく、1930年台の大恐慌に匹敵するとIMFなどもみている。

 ただし、注意すべきは今回の経済活動の停止状態はやむを得ない面はあったが、政府自ら行ったものであることである。それに対して1930年台の大恐慌は、多くの金融機関が破綻するなど金融危機による側面が極めて大きかった。景気や雇用の落ち込みは同じようにみえてもその要因はまったく異なる。ここでもし金融機関の経営そのものが悪化したりすれば、金融危機による大恐慌のような事態が本当に誘発されかねない。むしろそのようなリスクはこの状況下、最も避けるべきものと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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