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国内金融機関の在宅勤務の増加や海外投資家の取引減少などから、国債市場の流動性が低下

久保田博幸金融アナリスト
債券先物が上場している大阪取引所(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 4月1日の債券先物の中心限月の売買高はナイトセッションを除いた日中分で、9408億円となり1兆円を割り込んだ。手元のデータによると1兆円割れとなったのは、2019年7月29日の9980億円以来となる。

 ナイトセッションでの債券先物の売買高をもみると、中心限月が3月限から6月限に変わった3月11日あたりから次第に減少傾向となってきた。3月上旬は1兆円を超える日がほとんどであったのが、ここにきて5000億円を割り込んでいる。

 時間帯からみてナイトセッションに参加しているのは海外投資家が多いとみられる。債券先物の売買高に占める海外投資家の割合は大きい。ここにはHFTと呼ばれる高速度の取引もかなり入ってきているとされる。

 しかし、ナイトセッションの売買高の減少は海外投資家が円債市場からいったん手を引きつつあることを示している。それが日中の取引にも影響を与えているようで、債券先物の板がここにきてかなり薄くなっている。

 日中の取引高も減少しているのは、国内の金融機関の取引も細っているためとみられる。債券先物はいわゆるデリバティブ商品であり、現物債のヘッジを行うための取引手段といえる。本来であれば、今回のような相場急変の折には、ヘッジ手段として先物などは活用されてもおかしくはないが、むしろ手を引いている。これはいわゆるスペックとも称されるディーリング目的の売買が少なくなっているためとも言えそうである。

 これには金融機関の在宅勤務へのシフトも影響している可能性がある。ウォールストリートにおける金融機関などでは、エッセンシャルワーカーのカテゴリーに入っているようで、ディーリングルームが閉鎖されるようなことにはなっていないようである。これは日本でも同様ながら、通勤時のリスクなども考え、市場関係者も交代で在宅勤務となっている人が多くなっているのではなかろうか。

 自宅でのいわゆるテレワークでもディーリングルームにいる人経由でディール(取引)は可能かもしれないが、情報が絶対的に不足するし、自分で端末を打てないということは感覚が違ってきてしまう。取引所と結んだ機器がないとリアルタイムの板も把握できない。債券市場関係者にとってBBと呼ばれる日本相互証券の端末情報も必要である。情報端末のブルームバーグなどは自宅で確認できても、売買端末を見ることができないと生の動きを確認できず、端末で自ら発注することもできない。

 ディーリングルーム内での空気というか、雑踏としたなかでの会話そのものが情報源となることもある。少しでも気になる情報が入ると大声でそれを示すことがディーラーの新人には求められる(求められていた?)。さすがにツイッターの情報が早いと言われても、ディーリングルーム内の情報のほうが当然早く、それで端末の手が動く。それが自宅のテレワークではできなくなってしまう。

 債券市場だけでなく、これは株式市場や外為市場でも同様ではなかろうか、それでなくても大きな相場変動で損失を被ってしまったところも多いのではなかろうか。そうなればますます動きづらくなる。板が薄くなればなるほど値動きが荒くなってしまう。そんな状況が今後も続くことが予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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