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トイレットペーパーの山積み写真をみて連想したこと

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 今回のトイレットペーパー騒動に対して、イオンなどでトイレットペーパーが山積みされた写真がニュースなどで取りあげられ、SNSなどを通じてネットでも拡散された。

 金融市場関係者はこの光景をみて、取り付け騒ぎが発生した際の対応策を連想したむきもいるのではなかろうか。というよりも、今回のイオンなどでのトイレットペーパーの山積みも、不安を沈静化させるため、金融機関の取り付け騒ぎの際の対応策を参考にした可能性がある。

 かなり古いことになるが、1927年3月に片岡蔵相が「東京渡辺銀行が破綻した」と失言してしまったことをきっかけに大規模な取り付け騒ぎが発生した。政府は事態を収束するため、2日間銀行を臨時休業させることとしたほか、3週間のモラトリアム(支払猶予)を公布した。この間、日本銀行は正規の手続きによらない特別融通などの緊急貸出を実施。

 そして、預金者の不安心理を一掃することを目的に、現金を銀行の窓口に高く積み上げるという単純ながらも有効な手段が取られた。この際に、短期間に大量の日本銀行券が市中銀行に対する預金者からの預金払戻し請求などに応じるために発行されたことから、銀行券の印刷が間に合わず、やむなく裏面が白紙の200円の高額紙幣が発行されたことでも知られる。これらの措置の結果、金融恐慌はようやく鎮静化した。

 また、前回のトイレットペーパー騒動が起きた1973年にも、金融機関で取り付け騒ぎが発生していた、女子高生3人の雑談をきっかけとされる豊川信用金庫での取り付け騒ぎが発生したのである。オイルショックが起きて、トイレットペーパー騒動が起きるなど不安の連鎖が原因であった可能性もある。

 さらに1995年には木津信用組合の破綻による取り付け騒ぎが発生していた。この際にも店頭に現金が持ち込まれたが、その一部が盗難されるという事件も発生していた。1995年といえば、1月に阪神・淡路大震災が発生し、3月には地下鉄サリン事件が発生した年でもあり、この年も不安が拡がっていた。

 だから今回も、と不安を煽るつもりは毛頭ない。あくまでイオンなどでのトイレットペーパーの山積みをみて、現金を山積みするという銀行の取り付け騒ぎ時の対処法を連想しただけである。それでも不安の連鎖が何を引き起こすのか想像も難しいことも確かであり、注意を怠らないようにしておく必要もあろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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