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2003年の状況と似ている現状に、当時はSARSにイラク戦争、今回はイランと米国の対立と新型肺炎

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 先物市場から算出してFRBの金融政策の方向性を示すツールによると、FRBが7月までに0.25%以上の利下げに踏み切るとの予測は50%を超えてきたそうである。

 念のため、これがFRBの金融政策の先行き動向を適切に示すのかといえば、そうではなく、あくまで現状の市場参加者が足元の市場の動きなどからそのように認識を持っているとのひとつの見方を示すツールとみておく必要がある。

 米当局内では2003年に深刻化した重症急性呼吸器症候群(SARS)をモデルに景気への影響分析を急ぐとの日経新聞の報道もあった(「新型肺炎、FRB警戒強める 利下げ観測が再浮上」1月30日)

 2003年といえば、米英同盟軍は3月20日にイラクへの武力行使に踏み切った。

 日銀は3月25日に臨時の金融政策決定会合を開催していた。20日には福井新日銀総裁が誕生しており、福井新総裁はすぐに行動に移したともいえる。この際には、「臨時」の会合を開催したにもかかわらず、その結果は現行の政策を維持することを全員一致で決定した。しかし、そのあと開催された通常の政策委員会において、銀行保有株買取枠を2兆円から3兆円に拡大した。

 これについて、「日本銀行としては、対イラク武力行使の影響も含め、現下の厳しい金融経済情勢を踏まえて、今後、金融政策運営の基本的な枠組みについてさらに検討を進めることとした」ともあり、これはイラクへの武力行使の影響を意識した面も大きい。

 そして2003年に流行したのが重症急性呼吸器症候群(SARS)であった。これは中国経済に大打撃を与えた。

 中国の世界経済における存在感は2003年当時と現在では格段の差があり、現在のほうが影響は大きいとみられ、それもあってFRBの利下げ観測も出てきているともいえる。

 2003年6月にFRBは0.25%の利下げを行っていたが、これはSARSに対応したものではなかった。デフレ懸念が当面の間支配的であろうとの認識に基づいたものであった。

 FRBが今後利下げに動く可能性は否定できないが、今回の新型コロナウイルスによる世界経済への影響が一時的とみれば、現状維持を続ける可能性もある。

 それよりも今回の2匹のブラックスワン、つまり中東でのイランと米国との対立、そして中国発の新型肺炎による影響は2003年当時と同じような状況にあった点が興味深い。たまたまであったとは思うが、当時のことをもう一度振り返ってみても良いかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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