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ここにきて日米欧の国債価格が急落、日本の債券先物の下落幅はリーマンショック後に匹敵

久保田博幸金融アナリスト
大阪取引所のデータを基に著者が作成

 米10年債利回りは9月3日に一時1.42%まで低下し、過去最低の1.31%に接近した。その後は上げ下げを繰り返しながら、次第に上昇基調となり、11月7日に一時1.97%をつけ2%に接近した。

 欧州の国債利回りも回復基調となりつあり、9月にマイナス0.7%台をつけていたドイツの10年債利回りは11月7日にマイナス0.2%台にまで戻してきている。また、7月あたりからマイナス圏にあったフランスの10年債利回りは久しぶりにプラスに転じた。

 日本の10年債利回りも9月4日にマイナス0.295%とマイナス0.3%に迫ったが、ここから上昇に転じて11月8日にはマイナス0.045%をつけている。債券先物は25日に155円48銭まで上昇して、過去最高値を更新したが、11月8日には152円台に下落した。

 そして日経QUICKニュースによると債券先物の週ベースでみると11月5日から8日の週の前週比の下げ幅が1円49銭安となり、これは2008年10月14~17日以来、約11年ぶりの大きさとなったそうである。毎営業日、債券先物主体に値動きを追ってきたが、週ベースでみることはあまりしてこなかったので、これには気がつかなかった。結果としてリーマンショック後の不安定相場に匹敵するほどの下げになっていたのである。

 ドイツやフランスの10年債利回りの推移をみると下方トレンドが終了し、あらたなトレンド入りしたことをうかがわせる。これは米国の10年債利回りや日本の10年債利回りの動きをみてもその可能性が強まったといえる。

 それではここにきての日米欧の長期金利上昇、裏を返せば国債価格の下落はどうして生じたのか。

 そもそも日本や欧州の国債利回りがファンダメンタルズと乖離して低下していたことでその反動が起きているといえる。ファンダメンタルズと乖離してまで低下していたのは、ECBや日銀への過度な金融緩和策への期待が背景にあった。FRBの利下げ観測も当然ながら後押しをしていた。たしかにECBは無理矢理ながら包括緩和を行い、FRBも市場の期待通りに利下げを行った。しかし、これによってむしろ金融緩和の打ち止め感が強まった。日本にいたっては無理な追加緩和はしなくても良いとの認識も強まりつつある。このため、ECBやFRBが追加緩和を行って日銀が動かずとも、市場はそれを悲観するような動きとはならなかった。ドル円もまったく日銀の金融政策は無視した格好となっている。無視というか材料としている比重が急速に薄れていたといえる。

 さらに欧米の追加緩和期待の背景にあった米中の関税合戦については、いったんブレーキが掛かりそうな雰囲気となってきた。これも、いわゆるリスク回避の反動を招き、その結果として欧米の長期金利が上昇し、日本の長期金利も追随した。

 加えて黒田日銀総裁の発言にもあったが、日銀としては短期の金利には引き下げ余地があるとしながらも、長めの金利は低すぎるとの認識を示していた。実際に国債の買入で超長期ゾーン主体に減額したり、カレントを対象としないなどしており、これも長期金利の上昇を補完した格好となっている。

 もちろんファンダメンタルズも影響している。日米欧の長期金利が低下していた際には、米中貿易摩擦による世界経済への影響が危惧され、予想を下回る景気指数に反応しやすくなっていた。しかし、ここにきては1日に発表された10月の米雇用統計など予想を上回る指数に反応しやすくなってきている。思いのほか景気は悪くはないとの見方も、異常な水準に低下していた長期金利を引き上げた要因となっていた。

 日米欧の長期金利はどこまで戻してくるのか。少なくとも異常な金利水準からは脱してくるとなれば、日本の10年債利回りのゼロ%あたりがひとまず意識されるのではなかろうか。米10年債利回りからは目先は2%が意識されるとみられる。物価がそれほど上昇していないことからも、国債への売りが一巡すればこのあたりで、いったん落ち着きどころを模索するのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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