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日銀は金融政策の現状維持を決定、緩和カードは温存

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日本銀行は19日の金融政策決定会合において、金融政策の現状維持を決定した。今回も長短金利操作に対して、原田委員と片岡委員が反対票を投じた。

 公表文では、下記のような表現が加えられていた。

 「このところ、海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、日本銀行は、物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつあると判断している。こうした情勢にあることを念頭に置きながら、日本銀行としては、経済・物価見通しを作成する次回の金融政策決定会合において、経済・物価動向を改めて点検していく考えである。」

 米中の貿易摩擦などにより、海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるなかで、12日にECBは包括的な金融政策をドラギ総裁が押し切るかたちで決定した。18日のFOMCでは0.25%の追加利下げが決定された。これらはあくまで予防的措置といえる。

 日銀としては為替市場への配慮も意識して、予防的な緩和は見送ったが、緩和に向けた姿勢を一段と強めていることを示した格好か。10月の決定会合では、展望レポートも発表される。その際に経済・物価動向を改めて点検していくとした。一見、追加緩和を示唆したようにみえなくもないが、追加緩和を検討するとは書いていない。あくまで「点検」をするとある。繰り返すが次回会合での追加緩和を示唆したわけではない。もしリスクが高まるようなことが起きたならば、何かしら動かざるを得ないが、いまのような状態が続いて、急激な円高や株安等金融市場での動揺等がなければ、日銀は動くことはないし、動く必要もない。もっと言えば動かないに越したことはない。

 現状、日銀ができる追加緩和策は限られている。もっとも可能性があるのは短期金利の深掘りだが、マイナス金利の深掘りに対して、全銀協の高嶋会長が見送りを歓迎と述べていたように銀行の健全性が失われる懸念があり、それが経済全体に悪影響を与える可能性がある。日本の場合、リバーサルレートにすでに掛かっているとみてもおかしくはない。

 さらにマイナス金利の深掘りはより長い金利、特にプラスの金利となっている超長期債への購入圧力を強めることで、イールドカーブの一層のフラット化を招きかねない。日銀としては黒田総裁の会見にあったように、もう少しスティープしてほしいところであろう。そもそも長短金利操作そのものが、本来はイールドカーブのスティープ化を意識したものであった。そうであれば、短期金利の深掘り、長期金利のレンジ拡大というのは、あくまでかたちは利下げにみえても、それは効果どころか、より副作用を招きかねないものとなる。金融政策は参加することに意義があるものでは決してない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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