日本の国債が急落したのは何故か
13日に日本国債は急落した。日本の債券市場のベンチマークといえる債券先物は66銭安の153円98銭で引けた。前日比でみると2018年8月1日に83銭安となって以来の下げ幅となった。また、ナイトセッションを含めての当日値幅でみると13日の値幅は85銭となり、長短金利操作付き量的質的金融緩和政策を導入した2016年9月21日以来の大きさとなった。
現物債も大きく売られ、10年債利回りはマイナス0.160%に上昇した。9月4日にマイナス0.295%まで低下して過去最低のマイナス0.300%に迫っていた。また9月4日には債券先物も155円40銭まで上昇して過去最高値を更新していた。
ここから日本国債は下げ基調、つまり利回りからは上昇基調となったわけであるが、なぜこれほどまでに国債が買われていたのかを考える必要がある。欧米の国債も買い進まれていたことで、同様の理由で日本国債も買われていたといえる。
その理由のひとつに米中の関税戦争による世界的な景気減速への懸念と米中の覇権争い激化によるリスク回避の動きがある。そして、英国の合意なきEU離脱への警戒も出ていた。ただし、これらはあくまで警戒であった。
今後の景気減速を警戒して、FRBは7月に予防的利下げを行ったが、9月にも追加利下げ観測があり、ECBも追加緩和を実施してくるとの見方が強まった。欧米での金融緩和となれば日銀も、との発想も強まった。ただし、物価をみても目標値に達していないことも確かながら、前年比でマイナスとなっているわけでもない。
リスク回避という理由から日米欧の国債が買われ、金も買われていた。しかし、足元景気はそれほど悪いわけではなく、米国の株式市場はしっかりしており、またリスク回避で買われるはずの円がそれほど買われていないどころか、むしろしっかり。
結論から言えば、日米欧の長期金利の低下は行き過ぎであった。欧州の国債利回りが過去最低を更新したり、米国の長期金利も過去最低に迫ったり、日本の債券先物が過去最高値を更新していたのが異常であった。ここには仕掛け的な動きがあったとみて良いと思われる。
今回の下げが先物主導ともみられていたことで、買いを仕掛けていたのも先物主導のアルゴと呼ばれるシステムを使った、もしくはそのような殻をかぶった人為的な仕掛け買いの可能性が高い。
その反対売買が日本では9月4日以降に入ったとみられる。利回りからは過去最低がみえ、先物は過去最高値を更新し、いったん達成感が出た。そこに米中が歩み寄りをみせ、英国の合意なき離脱の可能性がひとまず後退した。先週から今週にかけての金融政策を決める会合ラッシュを前に、アンワインド(ポジションの反対売買)の動きを強めた可能性がある。結果として金融政策がどうなれ、それを確認する前にポジションを解くというのは、大きな仕掛けをする際の常套手段ともいえる。
実際にECBは予想以上の包括緩和を行ったが、これでもう限界かとの見方も出てドイツなど中核国の国債は売られた。しかし、これもアンワインドの動きともみられる。このため、ECBの緩和策があっても13日の日本の債券市場の地合いは改善するどころか、大きく下落した。
12日の夜のナイトセッションですでに売られていたが、これも地合の悪化を示すものとなる。13日の動きを見る限り、大きなポジションの調整とともにロスカットなども入ったとみられる。ただし、債券先物の出来高はそれほど膨らんでおらず、仕掛け的というよりもストップロスなどの売りが下げを加速させた面もあったとみられる。
17日の債券先物は、サウジアラビアの石油関連施設への攻撃とそれによる原油価格の上昇もあって、再びリスク回避の動きから買い戻されている。まだ、債券先物は目先の底を打ったとも言いづらい。少なくとも値動きが荒れ始めたことは確かである。
今週はFOMC、日銀の金融政策決定会合も控えている。いずれにしても中央銀行が切れる緩和カードはもうあまりない。本格的な景気減速など大きなリスクが起きたときの備えもなくなりつつある。いまは無理せずカードは温存すべきである。
長期金利についてもファンダメンタルズに即した水準に戻ってもおかしくはないが、マイナス金利そのものが金利観をおかしくさせ、今回のような仕掛け的な動きを許したともいえよう。