市場に促される中央銀行の金融政策で良いのか
FRBのパウエル議長は6日、スイス・チューリヒで行われた討論会で、米景気の基調は良好で「景気後退は予想しない」との見方を示しながら、「貿易問題の不確実性などがビジネスの重しになっている」との認識を示した。「世界的な景気減速や貿易政策を巡る不確実性、持続的な低インフレなどを含む大きなリスクは存在するため、それらを注視していく」とし、「我々は経済成長を持続するため適切に行動するだろう」と主張した。そのリスクに対処するための利下げを示唆したと受け止められた。
9月17、18日のFOMCを控え、いわゆるブラックアウト期間前での最後のFRBの公式見解となることで、あえて利下げを示唆し、すでに0.25%の利下げを完全に織り込んでいる市場の動きを追認したような格好となった。
米中の通商交渉の行方や英国のEU離脱の動きなど睨んで、市場ではリスクオフやリスクオンによる動きが代わる代わる起きている。通常であれば、米国市場に大きな影響を与えるはずの6日に発表された9月の雇用統計にもほとんど無反応となっていた。雇用統計については非農業雇用者数は前月比13万人増と予想を下回るが、平均時給の前年同月比の伸び率は市場予想を上回ったことで相殺された格好ながら、市場の反応度の低下も大きかったとみられる。これによりFRBの0.25%の利下げに向けた動きには影響なしとの見方もあったのかもしれない。
18日のFOMCでは利下げが検討されるとみられるが、どれだけ反対票が入るのかも注目したい。市場に促されて利下げを検討する格好ながらも、米景気に対してそれほど悲観的な見方が強まっているわけではない。トランプ政権からの圧力回避も意識されているかもしれないが、政治に屈すると金融政策がわけがわからなくなるという事例もどこかに存在している気がする。
FOMCの前、12日にはECB理事会が開催される。こちらでも市場からの緩和催促を受けた格好で金融緩和策が検討されるとみられる。ただし、量的緩和に対しては中核国を中心にすでに反対の声が出ており、利下げが検討されるのではないか。しかし、さらなるマイナス金利の深掘りは金融機関の弱体化などを通じた副作用も意識される。これは日銀も同様である。それでもドラギ総裁は緩和策を取りたいようであるが、それが果たして市場を通じてどのような効果をもたらすのか(金融政策は市場を通じて行われる)。市場安泰のための金融政策ではないと思うのだが。