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日本の長期金利が過去最低に接近、ここからのさらなる低下はあるのか

久保田博幸金融アナリスト
新聞などのデータを基に著者が作成

 4日に10年国債の利回りがマイナス0.295%まで低下し、2016年7月につけた過去最低のマイナス0.300%に迫った。

 2016年7月に10年債利回りが過去最低を記録しただけでなく、20年国債の利回りが初めてのマイナスとなっていた。この金利の低下は日本だけの現象ではなかった。米国債券市場で米10年債利回りは一時1.31%をつけ過去最低を更新し、30年国債の利回りも過去最低を更新していた。ドイツの10年債利回りはマイナス0.2%台をつけ、スイスの50年債利回りが初のマイナスとなっていた。英国の10年債利回りも過去最低を更新していた。

 2016年に入って、原油安とその要因でもあった中国経済の減速に巻き込まれ、英国のEU離脱も加わり、リスク回避の動きから日米欧の長期金利は低下した。日欧の長期金利がマイナス圏へと落ちるなか、信用度が高い上、金利がついている米国債の魅力が高まり、それが結果として米国の長期金利までもが1.31%をつけて過去最低を更新するという事態となっていた。

 今回、日本の10年債利回り(長期金利)が過去最低に迫ったのも、2016年と似た状況にある。当日の日本の消費者物価指数がマイナスとなっていたことで物価の低迷も当時は多少なり意識されていたかもしれないが、今回はリスク回避の面が大きい。

 いうまでもなく、今回は米中の関税合戦による世界経済への影響とともに超大国同士の対立姿勢が危機感を強めた。英国のEU離脱問題は2016年に発生したが、いまだに解決の糸口は見つからない。香港のデモは収束するのかどうか不透明感も強い。

 2016年7月頃の状況を確認すると、当時の米国大統領はトランプ氏ではなかったこともあり、FRBに対して過度の利下げ圧力などはなく、この年の12月のFOMCでは「利下げ」ではなく「利上げ」を決定している。

 日銀は2016年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定しているが、これは追加緩和というよりもマイナス金利政策への批判をかわす政策ともいえるものであった。

 今回についてはトランプ大統領がFRBに利下げを求め、ECBも何らかの追加緩和を模索するなどしているようだが、「予防的」という表現が使われるようにファンダメンタルズの悪化を受けてのものとはいえない。

 日米欧の今回の長期金利の低下の背景に中央銀行の緩和期待がまったくないとはいえないものの、金利低下を促しているのは追加緩和期待ではなく2016年7月と同様にリスク回避の動きと捉えざるを得ない。そうであれば日銀による追加緩和などは必要ない。

 果たして今回の世界的な長期金利の低下はどこまで行くのか。今回もファンダメンタルズを反映してというより、懸念やリスク回避との意味合いが大きいだけに、その要因が落ち着くかすれば過度な金利低下にはいずれブレーキが掛かることが予想される。中央銀行の金融緩和の可能性はあるが、あまり積極的な緩和策は必要ない。市場や政治からの過度な期待に対して、中央銀行が頑とした姿勢を示すことも重要であろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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