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トランプ大統領対パウエルFRB議長

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国のトランプ大統領は19日にツイッターに、「米政策金利はかなり短期間に少なくとも100ベーシスポイント引き下げられるべきだ。恐らく何らかの量的緩和も伴うべきだ」と書き込んだ。「それが起これば米経済はさらに好調となり、世界経済も大いにかつ速やかに強くなるだろう。皆にとって好ましい!」とも続けていた。

 トランプ大統領は今回、ドルは「あまりに強いため、世界の他の地域を傷つけている」ともコメントし、ドルの強さに対しても不満を表明していた。

 トランプ大統領はFRBの緩和努力が足らないためにドル高ともなっており、それにより自国はさておき、他の国に負の影響を及ぼしているとしている。これはFRBの大幅利下げや量的緩和を要求しながら、米国経済はしっかりしているともトランプ大統領はコメントしていたことで、さすがに矛盾に気がついたためなのかもしれない。

 1992年2月に当時の金丸自民党副総裁が「日銀総裁の首を切ってでも公定歩合を下げるべきだ」と発言したことを記憶している方もいるのではなかろうか。当時はまだ日銀法は改正されておらず、日銀総裁が大蔵大臣の命令に違反した場合、または日本銀行の目的達成上、特に必要があると認められるときには、内閣が日銀の役員を解任できると規定されていた。ただし、この規定が発令されたことはなかった。

 しかしその後、少し時を経て、日銀はインフレターゲットやアコード、そして異次元緩和も結局、飲まざるを得なくなっていた。

 このような状況にFRBも追い込まれるのか。それともFRBの独立性を維持させながら、大統領と折り合いをつけるのか。まさにトランプ大統領とパウエル議長との攻防戦が始まっている。

 FRBは連銀総裁などに対して箝口令を敷いたのではないかとの観測もあるなか、19日にボストン連銀のローゼングレン総裁は、貿易や世界経済成長の減速が米経済を著しく落ち込ませると確信してはいないと述べ、追加利下げには引き続き反対の姿勢を示した。

 ローゼングレン総裁は「米経済が好調なら、他国が不振だからという理由だけで米国も金融政策を緩和すべきということにはならない」と述べたそうだが、このタイミングでのFOMCでの投票権を持つローゼングレン総裁がメディアで発言した意味は大きい。

 23日のジャクソンホールでのパウエル議長の講演内容に注目が集まっている。FRBとしては当然ながら、ここでトランプ大統領の大幅な利下げ要求などに応えるつもりはなかろう。その理由を前もってローゼングレン総裁が示唆した上で、それでもFRBは米国経済の悪化防止の意味で年内の追加利下げの可能性も示唆することで、トランプ大統領との折り合いをつけに行くのではなかろうかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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