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日本の10年債利回りはどこまで低下するのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 8月1日の米国時間の午後に、トランプ大統領が3000億ドルの中国製品に9月1日から10%の追加関税を課すとツイートしたことで、金融市場の状況が一変した。1日の米債はリスク回避の動きから、10年債利回りは一時、2016年11月以来の低水準に低下し、2%の節目を大きく割り込んだ。1日の米10年債利回りは1.89%とあっさりと節目とみられた2%を割り込んできた。

 中国外務省が2日、中国は対抗措置を取らざるをえないと報復を示唆したことから、対中貿易戦争の激化懸念から米債には引き続きリスク回避による買いが入り、2日の米10年債利回りは1.84%に低下した。

 米国時間5日午後には、中国商務省が米国からの農産品の購入を一時停止する制裁措置を発表した。さらに中国当局が元安を容認したとの見方から人民元は一段安となった。これについてトランプ大統領はツイッターで為替操作だと断言し、「中国をやがて大きく弱らせる重大な違反だ」と非難した。そして、米財務省は5日、中国を「為替操作国」に指定したと発表した。トランプ大統領の指示とみられる。5日の米10年債利回りは1.71%に低下した。

 米10年債利回りは2016年7月に1.35%あたりまで低下したのち、2018年10月に3.2%台まで上昇していた。しかし、そこから再びダウントレンドとなり、2%を割り込んできた。

 これに対してドイツなど欧州の国債利回りは、それほど戻りきれなかったこともあり、やはり利回りはダウントレンドとなり、ドイツやフランスだけでなく、オランダやアイルランドの10年債利回りがマイナスに転じている。また、EUからの離脱問題を抱える英国の10年債利回りも5日に一時0.49%まで低下し、2016年8月に付けていた過去最低を更新した。

 これらを受けて日本の10年債利回りもマイナス0.2%と日銀の長期レンジの下限を試しにきている。5日にはマイナス0.215%と0.2%をさらに下回るが、特に日銀に動きはなかった。マイナス0.245%あたりまでは許容範囲との見方もあるが、さらにリスク回避の動きを強めると、欧米の国債利回りの低下などからマイナス0.3%あたりまで低下してくる可能性もある。

 市場に促される格好で日銀が長期金利操作のレンジを±0.3%に拡げる可能性もある。しかし、これを繰り返すと市場追随型にもなりかねない。このため日銀はこの長期金利操作そのものをもう少し拡げて修正してくる可能性もある。FRBの追加利下げ、ECBの緩和策などが今後決定される可能性があるが、日銀も緩和効果となりそうな、何らかの修正をいずれ施してくる可能性がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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