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日銀は緩和政策への前傾姿勢を強めるが、今後の日銀の利下げについては不透明感も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 7月30日の日銀金融政策決定会合では、賛成多数により金融政策の現状維持を決定した。長短金利操作に対して前回と同様に、原田委員と片岡委員が反対票を投じた。

 今回の金融政策決定会合の開催日がECB理事会とFOMCの間となっていたことから、日銀の動きも注目されていた。ただし、金融政策についてはFRBに先んじて日銀が動くことは考えづらかった。

 ECB理事会については、利下げを含む追加緩和の可能性もまったくなかったわけではない。しかしこちらもFRBの動向を確認することが先決とみられ、政策そのものは現状維持とした。ただし、FOMCでの10年ぶりの利下げがほぼ確実視されていることで、外為市場への影響も配慮して、次回の会合以降での緩和策の可能性を示唆するであろうことが予想され、その通りとなった。

 25日のECBの定例理事会では、金融政策は現状維持としたが、フォワードガイダンスで金利の引き下げの可能性を示した。少なくとも2020年上期中は金利が現行「またはそれ以下」の水準にとどまると表明した。これにより中銀預金金利を9月に現行のマイナス0.4%から引き下げる可能性が出てきた。

 今回の日銀の金融政策会合での無回答はありえないとみていた。FRBが動くことが予想され、ECBもそちらの方向性を色濃く示すことが予想される以上、為替市場での動きも配慮しての日銀の微調整が、何かしらのかたちで行われるであろうことが予想された。ただし、緩和手段に限りもあるなか、このタイミングで緩和に動くことはないとみていた。

 結果として決定会合後の公表文で何かしら文言が修正され、より緩和に向けた姿勢を強める表現になるであろうことが予想されたのである。ただし、フォワードガイダンスのいわゆる時間軸についての表現に修正が入ることはないとみていた。これは緩和策の手段を制限させてしまう恐れがあることに加え、リバーサルレート論などを背景とした金融機関への悪影響への懸念が先んじて強まることを配慮した可能性があった。

 このため時間軸の部分の「少なくとも 2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。」との表現は据え置かれた。これにより、「現在のきわめて低い長短金利の水準、もしくはさらに低い水準となることを想定している」といった表現への修正はなかった。

 そうであれば修正ポイントはどこなのか。結局、修正ポイントは時間軸のあとの表現となった。

 「今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる。」

 この部分については前回は下記のようになっており、文章が付け足されている。

 「今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。」

 付け足された文章では、「特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで」とある。日銀の金融政策は本来、国内経済の動向を見ながら行うものであろうが、米中の貿易摩擦による国内経済への影響も危惧されることで、このような表現となったとみられる。ただし、これは「海外経済の動向を中心に」というより、「海外中央銀行の動向を中心に」というのが本音ではなかろうか。

 「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合、というのはお約束であるが、物価安定の目標に向けたモメンタムが果たして存在しているのかという疑問が常につきまとう。しかし、これをお題目としないと次の行動をする意義が失われてしまうことにもなる。次の行動というのが、「躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」となった。

 ちなみに6月20日の黒田総裁の会見において、物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるような状況になれば、躊躇なく追加緩和を検討していくことになると思っています、との発言があった。

 また、7月5日の雨宮副総裁による都内の講演で、下記のような発言があった。

 「下方リスクによって物価安定目標に向けたモメンタムが損なわれるような状況になれば、躊躇なく追加緩和を検討していく」

 今回の公表文の修正とほぼ同じ文言が使われていたのである。この「躊躇なく」と言う表現に個人的には違和感を持っていたので気になる表現ではあった。この「躊躇なく」と言う表現が少なくとも執行部では共有されていたようである。その文章が今回、公表文で付け足され、より緩和に前向きなスタンスをこれによって表現しようとしたものと思われる。ただし、6月20日の総裁会見や副総裁の講演と今回の修正に違いがあるのは、「追加緩和を検討していく」が「追加的な金融緩和措置」となっている点となる。時間軸の表現を修正しなかったこともあり、これは利下げが意識されたものではないとの見方ができるかもしれない。

 そういえば片岡委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとして反対票を投じていたようである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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