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理解しづらい英国のポンド安と株高の理由とは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 7月24日に英国首相に就任したジョンソン氏は、EU離脱の合意内容の再交渉を求めているが、ユンケル欧州委員長は再交渉を拒む姿勢を示している。29日にはEUが交渉姿勢を変えない限り、ジョンソン氏は面会に応じない方針を示したと伝わった(日経新聞電子版)。

 これを受けて、英国の合意なきEU離脱の可能性があらためて意識され、29日のニューヨーク外国為替市場ではポンド売り・ドル買いが進んだ。英ポンドはドルに対して大幅に下落し、一時は1.2213ドルと2017年3月中旬以来のポンド安・ドル高水準まで売られた。

 ポンドは円に対しても下落し、ポンド円は133円を割り込んでいる。これはリスク回避のようにもみえるが、ドル円は109円に接近するなどしており、リスク回避による円買いが進行しているわけではない。

 今回の大幅なポンド安に対して、他市場はそれをリスク要因とは認識していない。そもそも英国の株式市場は、このポンド安を「好感」し、ロンドン株式市場の代表的な指数となっているFTSE100種は、約1年ぶりの高値となっていた。さらに別途材料が出たこともあるが、ロンドン証券取引所(LSE)グループの株価は過去最高値を更新していた。

 29日の英国の10年債利回りは0.65%に低下している。この英国の10年債利回りは昨年の10月初旬の1.7%台あたりから低下トレンドを形成しており、このままいくと2016年8月につけた0.5%台あたりまで低下しそうな勢いとなっている。

 英国の合意なきEU離脱が実現してしまうと、当然ながら英国ばかりでなくEUにも大きな影響・被害が及びかねない。このため、市場では現実には合意なきEU離脱の可能性は薄いとみているのか、それともそれが現実化しても英国の金融経済に与える影響は限定的とみているのかは定かではない。

 しかし、少なくともロンドン株式市場と英国債の動きを見る限り、市場ではリスクは意識されているものの、むしろそのリスク回避によるポンド安や金利安のほうを好感している格好となっている。

 これらの動きに対して市場が間違っている、何か勘違いをしているとの見方もあるかもしれない。しかし、リスクには過敏に反応しやすい金融市場でもあるだけに、むしろ市場は冷静にそのリスクに対処しているとの見方もできるかもしれない。ただし、見えなかったリスクが今後顕在化し、いわゆるテールリスクによって市場の地合いが大きく変わる懸念もないわけではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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