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ECBは今後の緩和の可能性を示唆、ECBのこれまでの動きを再確認

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 これまでのECBの金融政策について、少し振り返ってみたい。

 2016年3月10日のECB政策理事会では、政策金利は下限金利である中銀預金金利を0.1ポイント引き下げマイナス0.4%とし、主要政策金利であるリファイナンスオペの最低応札金利も0.00%と従来の0.05%から引き下げ、政策金利の上限金利であるところの限界貸出金利も0.25%に引き下げた。これでいったん利下げは打ち止めとなった。

 これはマイナス金利政策の強化に見えたものの、ドラギ議長(当時)は理事会後の会見で、「今の状況ならこれ以上利下げする必要が無い」と発言していた。

 このドラギ総裁の発言は、政策金利そのものをゼロにまでしたことで、これ以上の政策金利の引き下げは難しいことに加え、マイナス金利による欧州の銀行への収益悪化を意識したものと思われた。

 これ以降のECBの追加緩和については「金利政策からその他の非伝統的な金融政策に軸足を移す」とドラギ総裁は明言していた。これはECBのマイナス金利政策からの転換を意味するものであったのか。

 それではECBは非伝統的な金融政策としてはどのような手段を意識しているのであろうか。このときのECBの政策には資産買い入れ規模を月間600億ユーロから800億ユーロへの拡大が含まれていた。資産購入の対象には銀行以外のユーロ圏企業が発行した投資適格級の社債も加えられた。

 2016年12月8日のECB理事会では政策金利は据え置いた。すでにこれ以上のマイナス金利の深掘りをしないことを表明。ECBは国債の買い入れの範囲を拡げることを検討。必要な範囲で中銀預金金利を下回る利回り水準の国債も買い入れることや、買入銘柄の残存期間を2年以上から1年以上にするなど、いわば日銀が昨年12月に行った補完措置のようなことを行った。これにより国債の買い入れ余地を拡げ、問題はその期間と月ごとの買い入れる量となった。毎月600億ユーロの買入の9か月延長が決まった。

 2018年12月13日の政策理事会において、主要政策金利を据え置くと同時に、4年近くに及んだ2兆6000億ユーロ規模の量的緩和(QE)を終了させることを正式に決定した。ECBも非常時の緩和策から平時の緩和策に戻す、いわゆる正常化に向けた一歩を進めたことになる。

 保有債券の満期償還金の再投資についてのガイダンスを変更し、「政策金利引き上げの開始後も長期にわたり続ける」とした。その政策金利については、少なくとも2019年夏の終わりまで据え置くとした。

 ECBは今年3月の理事会で、想定する利上げ時期を今年の夏以降から来年に先延ばししたが、これは実質的に利上げを封印してきたように思われた。

 そして、25日のECBの定例理事会では、金融政策は現状維持としたが、フォワードガイダンスで金利の引き下げの可能性を示し、必要に応じて量的緩和(QE)を再開する計画も明示した。ただし、ドラギ総裁はユーロ圏の景気後退リスクは低いとの認識を示した。緩和手段も限られ、景気が極端に悪化しているわけではないものの、FRBの利下げの可能性も意識して、ECBも姿勢を緩和に向けて転じざるを得なかったとみられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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