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FRBが大幅利下げ観測への火消しに走る

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 「ニューヨーク連銀の報道官は、同連銀のジョン・ウィリアムズ総裁による18日の講演について、連邦準備制度理事会(FRB)が7月に大幅な利下げを行う可能性を示唆する意図はなかったと述べた。」

 「ウィリアムズ総裁はこの講演で、金利はすでに低く利下げ余地が限られるため、脆弱な兆候が出た場合、より迅速に対応する必要があるとの考えを示した。」

 上記は19日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事である。18日のニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁による上記発言に加え、FRBのクラリダ副議長も、見通しに対する不確実性が高まっており、景気が下降するのを待ってから行動するのは望ましくないと述べていた。FRBの幹部からのこれら発言を受けて、市場ではFRBによる「積極的な」利下げ期待が強まり、0.25%ではなく0.5%の利下げへの期待が強まったようである。

 これに対してFRBはWSJなどを通じて、0.5%の利下げ観測が燃え広がった市場に対し、火消しに走った格好となった。

 FOMCにはブラックアウト期間というものが設けられている。ブラックアウト期間とは、当局者、つまり金融政策を決めるFOMCの参加メンバーらが、金融政策についての発言を控える期間である。ブラックアウト期間はFOMC開催予定日の前々週の土曜日からとなっている。つまり20日以降は発言は手控えなければならない。

 FRBの関係者はブラックアウト期間の前に、市場に対して利下げを織り込ませようとして、やや前向きの発言をした可能性がある。ただし、0.5%という数字を出したわけではない。あくまで利下げの可能性を強く指摘しようとしたものとみられる。しかし、すでに市場では利下げそのものは織り込んでいたことで、今回のウィリアムズ総裁の利下げに対する前傾姿勢の発言を、0.25%ではなく0.50%の大幅利下げを示唆したのではないかと読んだ可能性がある。

 金融当局と市場との対話はなかなか難しいものがある。政策変更時にはなるべく市場での過度な反応を抑えようとして、今回のような織り込ませ発言等は以前にもあった。ただし、そのときのマーケットの織り込み具合などを確認しておかないと、マーケットに過度な期待を抱かせることにもなりかねないので注意が必要か。

 それにしても、株価が最高値を更新しているのに、本当に予防的な利下げは必要なのであろうか。政治的配慮はまったくないといえるのであろうか。マーケットがあまりに緩和慣れし過ぎているといったことはないのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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