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キャッシュレス化の促進にQRコード決済は必要なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 今回の「7Pay」における不正利用問題により、QRコード決済に対する問題点がいくつか浮上した。QRコード決済は特別な端末など必要なくスマホがあれば簡単に決済ができるというのが利点のひとつと思われるが、そこにはセキュリティという大きな障壁が存在していた。これをどの程度強固なものにする必要があるのか。今回の不正利用はここを突かれた可能性が高い。

 そもそもクレジットカードそのものがキャッシュレス化をもたらすものであるにもかかわらず、別なキャッシュレス化のためにそれを使うということに違和感がある。カードではなくて、スマホを使うのがスマートなキャッシュレス化だということなのであろうか。

 QRコード決済はひとつのブームのようになって乱立してきたが、それを使いたいと思わせるインセンティブは、私の見る限り現金などの還元セールでしかない。中国でのQRコード決済の普及には、それがいたるところで使えるというのも利点とされた。それに対して日本ではキャッシュレス化が遅れていたわけではない。それはかなり浸透し、すでにその基盤はできていた。このため、QRコード決済の普及が日本でのキャッシュレス化を促進するということにはならない。

 電車の乗り降り、スーパーやコンビニでもFelicaと呼ばれるソニーが開発した技術によるキャッシュレス化によるカード利用は広まっている。クレジットカードもかなりのところで利用が可能となっている。ただし、日本ではスマホを使ったキャッシュレスのアプリの利用が広がっていなかっただけである。念のため、FelicaだけでなくQRコードも日本の技術である。

 おサイフケータイという機能が生まれて15周年だそうだが、そういった機能を備えたスマホが昔から存在していた。それにもかかわらずスマホを使ったキャッシュレス化が進まなかったのは、やはりセキュリティに対する問題が意識され、さらにはスマホのアプリ内での現金に対する信頼性が、クレジットカードなどに比べて低かったためではないかと思われる。それを覆すほど魅力的な利用法もスマホのアプリ決済ではいまのところ出てこなかった。

 我々は現金の利用について特に不安を持つことはない。それだけ強固なインフラが備わっているためといえる。クレジットカードについても時間をかけて信用を培ってきた。それに対してスマホを使ったキャッシュレスに対しては、やや不安を持っていたと思われる。今回の7Payにおける不正利用問題も含め、いわゆるQRコード決済で出てきた問題は、その不安をさらに高めることにもなりかねない。

 QRコード決済そのものが今後どのようになっていくのかは見通せない。まだ始まったばかりであり、今回のような問題を解決していくうちに利用が広がる可能性もありうる。しかし、それでもスマホのアプリで決済を行うことへの不安はなかなか拭えないのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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