国債のプライマリー・ディーラー制度とは
戦後、国債発行が開始されてから国債の安定消化に大きな役割を果たしていたのが国債引受シンジケート団であった。しかし、シ団制度は多くの国で行われていないことに加え10年利付国債しかカバーしていなかった。国債の発行年限の多様化などにより、シ団制度そのものの形骸化が指摘されるようになり、1998年末の資金運用部ショックと呼ばれた国債の需給悪化を背景にした債券急落をきっかけに、新たに設けられたのが国債市場懇談会である。
この国債市場懇談会はあくまで財務省理財局長の勉強会との位置付けであった。これを発展させ、欧米で広く採用されているプライマリー・ディーラー制度(政府公認の国債取引業者)の仕組みを取り入れて、省令に基づく正式な制度としたのが国債市場特別参加者制度である。日本版プライマリー・ディーラー制度であり、その会合は国債市場特別参加者会合が正式名称であるが、PD懇(プライマリー・ディーラー懇談会)とも称されている。
プライマリー・ディーラー(primary dealers)のプライマリーとは新規に発行されることを示す。プライマリー市場が発行市場を意味し、これに対して既に発行されたものを売買する場がセカンダリー市場と呼ばれる。セカンダリー市場とは債券の流通市場となる。またディーラーとは、財務省が発行する国債を自己の資金で売買することができる証券会社や銀行などを指す。
プライマリー・ディーラー制度とは、指定を受けた証券会社や銀行に対し、一定の規模の国債の入札や落札、市場の状況等の報告が義務付けられる代わりに、一定の優遇措置が認められる制度である。
財務省が発表した国債市場特別参加者制度運営基本要領によると、国債の安定的な消化の促進並びに国債市場の流動性、効率性、競争性、透明性及び安定性の維持並びに向上等を図ることが国債市場特別参加者制度の主な目的となっている。
国債市場特別参加者、つまりプライマリー・ディーラーとなった参加者に対しては責任が求められる半面、資格も得られる。
責任としては、すべての国債の入札で、相応な価格で発行予定額の5%以上に相応する額を応札しなければならない。落札額も超長期国債・長期国債・中期国債についてそれぞれ0.5%以上、短期国債は1%以上の落札責任がある。また、国債流通市場に十分な流動性を提供することも求められている。取引の動向等について情報の提供も求められる。
資格については、おおよそ四半期に一度開催される国債市場特別参加者会合に参加することができる。ここで各年度の国債発行計画、各四半期の国債発行のあり方、国債に対する需要動向、国債の商品性のあり方、国債流通市場の動向等、財務省と意見交換等を行うことができる。また、分離適格振替国債(ストリップス債)の分離・統合の申請を行うことができ、通常の競争入札と同時に行われる第1非価格競争入札及び競争入札後に行われる第2非価格競争入札に参加できる。さらに流動性供給入札への参加ができ、財務省が実施する金利スワップ取引の優先的な取引相手となることができる(財務省のサイトから一部引用)。