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年内の日銀の追加緩和の可能性は低い

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 米国の中央銀行にあたるFRBは、これまでの正常化路線にブレーキを掛ける姿勢を示しており、年内の利上げ、さらに資産買入の縮小も年内にも停止すると予想されている。

 ECBは夏以降の利上げを探ると予想されていたが、こちらも現状は年内の利上げ観測は後退している。英国のEU離脱問題も抱えてイングランド銀行も動けないとみられる。

 中国の第13期全国人民代表大会(全人代)では、2019年の経済成長率の目標を「6~6.5%」と、2018年の「6.5%前後」から2年ぶりに引き下げた。米中貿易摩擦の影響もあり、中国での景気減速観測も根強い。

 ただし、さすがのトランプ大統領も公約優先では米国経済に深刻な打撃を与えかねないことも理解し始めたのか、米中の通商問題は関税の引き下げ等も検討されはじめているようで、解消に向かう期待も出始めている。

 そして景気の減速観測の強い欧州についても、やや楽観的な見方も出ている。しかし、フランスでの政治情勢、そして英国のEU離脱問題など課題も多く抱えており、それほど楽観視できないことも確かではなかろうか。

 株価をみると昨年のクリスマスあたりを底にして米国株式市場は値を戻しており、日経平均も同様に反発相場となっている。この動きを見る限りにおいて、現状は少なくとも欧米、さらには日本の中央銀行が、追加緩和にまで追い込まれる可能性はそれほど高くはないとみられる。

 為替動向も気になるところではあるが、ドル円についても112円近くまで戻している。いまのところ円高リスクが再燃するような状況とはなっていない。

 国内経済も中国の景気減速などの影響から、減速することも予想されるが、米中の貿易摩擦が解消に向かうことになれば、大きく落ち込むことは考えづらい。今年の改元、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、さらには2025年の大阪万博なども控えて、お祭りムードが継続することも予想される。

 以上のことから少なくとも日銀が年内に追加緩和をせざるをえない事態が生じることは考えづらい。むろんブラックスワンが突如現れる懸念もないわけではないが、いまのところはその兆候もない。日銀の国債の買入は来年度の国債発行額の減額に即したものとし、買入額は実質減額しても、ストック効果が意識されて、債券市場での金利上昇もある程度抑えられると思われる。2%の物価目標が達成される見込みはないが、その達成を誰も望んでもいないこともたしかである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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