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実感なき景気回復から、実感ある景気減速に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 「アップルが29日発表した2018年10~12月期決算は、売上高が前年同期比5%減の843億1000万ドル(約9兆2200億円)だった。主力商品である「iPhone」の中国販売が想定よりも落ち込み、9四半期ぶりに前年実績を割り込んだ。19年1~3月期も前年同期比で減収を予想しており、不振が長びく可能性が出てきた」(30日付日経新聞電子版)。

 iPhoneの中国における販売の低迷の要因としては、米中の貿易摩擦による影響も大きかったとみられる。しかし、スマートフォンとしては高額なiPhoneへのニーズそのものが後退していた可能性がある。

 中国国家統計局が21日に発表した2018年の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前年比6.6%増となり、天安門事件の影響で経済が落ち込んだ1990年の3.9%増以来、28年ぶりの低水準となっていた。この景気減速もあっての高額なiPhoneへの買い控えが起きていたのではなかろうか。

 画像処理半導体エヌビディアは2018年11月~19年1月の売上高を2割下方修正していた。こちらには仮想通貨バブルがはじけたことも要因として指摘されているが、サーバーなどへの投資そのものが手控えられていることも要因とされている。

 半導体景気が失速したことによって、韓国の2018年のGDPも3年ぶりの減速となり、2012年以来、6年ぶりの低水準となった。ハイテク投資の落ち込みは日本経済にも少なからず影響をもたらすことが予想される。

 iPhoneの地域別の売り上げでは中国で27%も減ったが、日本でも5%減少していた。今後は日本で端末と通話料金の分離が進むとされ、通話料金が下がれば、端末の実質負担が大きくなる可能性がある。そうなると10万円もの携帯を2年おきに乗り換えるといったインセンティブは低下してくる可能性がある。景気が後退してくればなおのことになるのではなかろうか。

 半導体などのハイテク需要は個人向けだけではなく、法人企業向けも大きいが、こちらも景気動向に大きく左右される。米中の貿易摩擦が景気減速要因となっているとは思うが、その影響だけでなく、世界経済そのものが減速傾向にあるとみていた方が良いのではなかろうか。実態なき景気回復から、実態のある景気減速に移ってくる可能性も意識しておく必要がありそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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