Yahoo!ニュース

壊されたJGBアラート、財政規律を無視するな

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 9月22日に財務省で国債市場特別参加者会合が開催された。国債市場特別参加者とは、いわゆるプライマリー・ディーラーであり、まさに国債市場の専門家集団ともいえる。今回はこの会合の議事要旨から、「最近の国債市場の状況と今後の見通しについて」との意見のなかから特に財政規律に関する発言をピックアップしてみた。

 「(国債の)価格発見機能については、財政拡大という話が出た際に、本来、利回りが上がって、そういった動きをけん制する機能があったところ、現在のマーケットの中には見られない。こうした状況が長期化するに従って、本来あるべき価格との乖離が大きくなっていく。こうした事態をこのまま見過ごしていいのかという懸念は絶えず持っている。」

 「足元、政府が本来よりもはるかに安い金利でファンディングできる環境にあり、この間に財政健全化を進めること、金融政策の正常化が進められた場合に十分に対応できるよう市場環境を整備すること、年限毎の国債発行残高の構成を検討すること等の政策を是非積極的に実施してほしい。」

 「昨日に中国の国債の格付が引き下げられたが、将来的に日本国債の大幅な格下げがあると、金融機関の外貨ビジネスの活路が断たれてしまう。財政健全化に向けた動きは緩めるべきではない。」

 「市場の発信機能の低下が挙げられる。本来、財政規律、景気の好不調、今後の経済見通し等に対して、市場は様々なサインを発信するが、ボラティリティが低下していることによって、市場の発信機能が低下している。金融当局及び発行当局は、市場からのサインを見て政策判断を行っていくことが望ましいが、発信機能が低下していくことによって、結果として政策判断を間違えるリスクが高まっている。」

 安倍首相は25日の午後6時から記者会見を開き、28日召集の臨時国会の冒頭で衆院を解散する考えを表明した。消費税の増収分の使途変更を表明した上で、2兆円規模の新たな経済対策を年内に策定する意向を示した。

 アベノミクスと呼ばれたリフレ政策は国債そのものが道具にされた。日銀が国債を大量に買い入れることで物価上昇を狙ったが、そんな簡単に物価が上がるものではなく、国債市場の機能不全と実態経済に即しない長期金利の押さえ込まれた状態が続いている。

 このような状況は非常時に行うべきものであるはずなのにも関わらず、日本の景気は「いざなぎ」を超えた可能性が高いそうである。これが日銀の異次元感のおかげと判断するのは勝手だが、それならそれで結果が出ているのであれば日銀の異次元緩和を緩めても良いのではなかろうか。

 今回の選挙はそんな歪んだ状況を修正してくれる選挙になるのではとの期待があった。しかし、台風の目となりそうな希望の党も景気が実感を伴って回復するまでの消費増税の凍結を打ち出している。そうなると現在の日銀の異次元緩和ありきの政策が想定される。これがどのようなリスクを含んでいるのかは、上記の国債市場参加者の発言をみればわかろう。財政リスクはないのではなく、力尽くで見せなくしているだけである。国債の価格発見機能も日銀によって押さえ込まれている。

 発信機能が低下していくことによって、結果として政策判断を間違えるリスクが高まっている、との指摘があったが、今回の選挙でも政策判断を間違える可能性は十分にありうる。この前提にあるのが国債市場がおとなしくしてくれていれば、ということになろう。そうしたいのであれば、まずは財政規律を維持することを重視すべきで、それを最も重視しているのが、リフレ政策を採用していた安倍首相という皮肉な状態となっている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事