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FRBのフィッシャー副議長が辞める理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 FRBは6日、フィッシャー副議長が辞表を提出したと発表した。「個人的な理由」という。FRB理事からも退くそうで、完全にFRBの職を辞することになる。

 フィッシャー副議長は、米国とイスラエルの両国籍を持ち、前職はイスラエル銀行の総裁だった。バーナンキFRB議長やドラギECB総裁などを教えた大学教授だけでなく、世界銀行チーフエコノミスト、IMF筆頭副専務理事、民間銀行などで実務も経験している。指名した当時のオバマ大統領は、世界で最も優秀で経験豊かな経済政策の専門家のひとりとして広く認められていると語ったが、それに嘘偽りはないであろう。

 バーナンキ前FRB議長やドラギECB総裁が一目置く存在であるフィッシャー副議長の存在は、イエレン次期議長を補佐するだけの立場には止まらなかったと思われる。

 FRBの舵取りはイエレン議長とフィッシャー副議長が二人三脚で行ってきたとみられ、特に正常化の道筋をつけたのもフィッシャー副議長の働きが大きかったと予想される。そのフィッシャー副議長が何故、任期を残してこのタイミングで退任するのであろうか。ちなみに任期は副議長としては2018年6月12日まで、理事としては2020年1月末となっていた。

 フィッシャー副議長は8月に英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のインタビューに応じ、米国政府が銀行規制の緩和に取り組んでいることについて「危険であり、極めて近視眼的だ」と述べていた。

 FRBではタルーロ前理事が今年4月に2022年1月まで5年の任期を残して途中辞任した。金融危機後に銀行規制担当の副議長を設置することが決定したもののオバマ政権は与野党対立のあおりで同ポストの任命を見送っていた。このため実質的にタルーロ前理事が理事ポストのままで金融規制担当を担ってきた。ところがトランプ政権となり、同氏に対し共和党から反発も広がっていた。このため早期辞任となってしまったのである。

 トランプ政権は7月10日にFRB副議長に元財務次官のランダル・クオールズ氏を指名すると正式発表した。クオールズ氏は2005~2006年のブッシュ政権下で国内金融担当の財務次官を務め、金融規制に精通しているとされる。しかし、タルーロ前理事の辞任からもわかるように、クオールズ氏が就任すれば規制緩和へ路線転向を図ることになる。

 フッシャー副議長とクオールズ氏が金融規制に関して意見の食い違いが生じることが予想された。しかし、それ以前にフィッシャー副議長としてはトランプ政権による銀行規制の緩和そのものに反対であり、結果としてタルーロ前理事と同様の早期辞任というかたち取らざるを得なくなったものとみられる。

 フッシャー副議長が辞任となれば、まだクオールズ氏が議会の承認待ち状態となっていることもあり、7名の理事のうち空席が4名という事態となる。イエレン議長にとっても強力な支持者を失うことになる。ブレイナード理事は正常化に向けた特に利上げに関しては極めて慎重である。ニューヨーク連銀のダドリー総裁もイエレン議長を支えてきた人物であるが、それでもフィッシャー副議長の抜けた穴は大きすぎる。さらにはトランプ政権との対応に今後いっそう苦慮しかねない。イエレン議長が続投する可能性はこれでむしろ薄れた可能性もあるのではないか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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