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トランプ大統領は議会との壁も構築中

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領は22日、アリゾナ州フェニックスで開かれた支持者の集会で、米国はおそらくある時点でNAFTAを終了させることになるだろうと述べるとともに、政府を閉鎖しなければならなくても、壁を建設すると述べた。これらの発言を受けて、23日の米国株式市場は下落し、米債は買われ、リスク回避の動きとなった。この発言がどうしてリスク回避の動きとなったのかを整理してみたい。

 議会は今会計年度が終了する9月末までに、新年度の歳出法案を成立させなければならない。しかし議会で合意が得られない場合には、つなぎ予算案を承認しつつ、新年度の本予算の協議を続けることになる。新年度予算案を審議する期間は少なく、今回のそのケースとなる可能性が高い。しかし、つなぎ予算と本予算のどちらも折り合いがつかないとなれば、政府機関の閉鎖という事態が発生する。

 ムニューチン財務長官やポール・ライアン下院議長などは「連邦政府機能の一部閉鎖」という事態は発生させないと主張しているものの、今回のトランプ大統領の発言により、政府閉鎖の可能性が現実化しつつある。

 トランプ大統領は選挙公約にメキシコ国境の壁建設を掲げていた。ところが2018年度の歳出法案には、メキシコ国境沿いの壁建設費用は含まれていない。上院(定数100)での可決には60の賛成票が必要ーとなるが、上院の共和党議席は52で、民主党の一部が支持しなければ可決できないことになる。

 政府機関閉鎖は過去何度か起きてはいる。直近では2013年10月にオバマ前政権の医療保険制度改革法(オバマケア)向け支出を巡り、ねじれ状態となっている米国議会では次年度予算が成立せず、与野党の対立が解けないまま、およそ18年ぶりに政府機関の一部が閉鎖される事態となった。

 そしてもうひとつの問題がある。債務上限問題である。米国政府は財政赤字を支えるために米国債を発行して借入をする必要がある。この債務については上限が議会で決められており、債務上限に達した場合、議会があらためて債務上限の引き上げに応じなければならない。もしこれができなければ政府はデフォルト(債務不履行)に陥る。

 財務省は9月29日までに議会が債務上限を引き上げてくれることを要望しているとされる。ただし財務省には緊急時の予備財源があり、デフォルトが起きるのは早くて10月半ば以降になる。通常、歳出予算案と債務上限の2つは本来別々に審議されるが、今回はセットで取り上げられる公算が大きいとされている。(ロイターの記事より引用)。

 いずれの法案も上院を通すには民主党の一部が支持しなければ可決できない。ここに民主党が反対するメキシコ国境の壁建設の予算を強引に求めると、かなりこじれ、政府機関の閉鎖やデフォルトが現実味を帯びることになる。

 トランプ大統領は高い支持を得ている退役軍人関連の法案に、債務上限引き上げ措置を盛り込むよう議会の共和党指導部に求めていたそうだが、共和党上院院内総務と下院議長は両法案を抱き合わせにしない決定を下したとか。すごく簡単にできたはずなのに今はめちゃくちゃだ、とはトランプ大統領(ブルームバーグ)。妙な裏技を使おうとしたトランプ大統領の方がめちゃくちゃのような気がしなくもない。

 大手格付け会社フィッチ・レーティングスは23日、米連邦政府の債務上限が10月までに引き上げられない場合、米国の長期債務格付けを引き下げ方向で見直す可能性があるとの見解を示した。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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