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日本の弥生時代に貨幣が存在していた?

久保田博幸金融アナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

神戸新聞によると、紀元14~40年にかけて中国古代国家の「新」「後漢」で鋳造されたとされる貨幣「貨泉」3枚が、兵庫県南あわじ市八木入田の入田稲荷前遺跡で見つかったそうである。弥生時代に日本へ流入したとみられ、一度に出土した数量としては全国で3番目の規模となるとか。

弥生時代にすでに中国の通貨が日本に存在していたという事実にまず驚いた。この記事によると貨泉は九州や近畿、瀬戸内海沿岸などの遺跡ですでに計約180枚が見つかっていたそうである。今回の発見で神戸市の市教委は「海上交通の要衝だった淡路島が弥生時代の流通で果たした役割を考える上で重要な史料」とコメントしている。弥生時代にはすでに中国との交易が盛んであったとか。ただし、弥生時代は物品貨幣の社会で、実用の貨幣だったとは考えがたく、交易拠点にもたらされた小型青銅器の一つではないかとの専門家のコメントも記事に掲載されていた。

しかし、貨幣という存在そのものがすでに弥生時代に中国からもたらされていたことには驚きであった。ただし、世界史を見るとその時代には各地で貨幣は流通していたことも事実である。

世界における最初の鋳造貨幣は、紀元前7世紀ごろに現在のトルコ西部に位置するリディアで発行されたエレクトロン貨とされている。紀元前6世紀頃のギリシア期において、貨幣使用を中心とした貨幣経済化が進む。ローマでは紀元前46年頃にカエサルのもとで行なわれた鋳造策などによって、貨幣体制は整ってきた。

中国の最初の鋳造貨幣は、春秋戦国時代に作られた貝貨のような形をした蟻鼻銭(ぎびせん)と言われている。紀元前221年に中国を統一した秦の始皇帝は、秦で用いられていた環銭の形に銭貨を統一し、すでに発行されていた「半両銭」という円形方孔貨に統一された。

そして貨泉は前漢と後漢の間にあった新(紀元8年~23年)の時代の貨幣であり、鋳造期間が短かったこともあり、一緒に出土した土器などの年代をはかるキーとなっているそうである。

たしかに出土された貨泉の枚数は少なく、貨泉が通貨として使われた可能性は少ないかもしれない。しかし、通貨という認識はすでに当時からあった可能性がある。どうも我々というか私が勝手に抱いていた弥生時代のイメージと実際とはかなりギャップがあるような気がする。ちなみに日本で貨幣が生まれたのは下記のような経緯からとされている。

金銀などの貴金属を貨幣として利用するに際には、地金などよりも一定の重量に鋳られた固まりのほうが便利となる。飛鳥板蓋宮伝承地など7世紀後半の飛鳥時代を代表する遺跡のなかから「無文銀銭」と称される小孔が穿たれただけの銀製の小円板が出土している。この無文銀銭も和同開珎の銀銭1枚と同等の価値を有する「貨幣」ではないかとみられている。

708年の和銅元年に日本最初の「公鋳貨幣」として「和同開珎」が律令制府により鋳造された。701年に「大宝律令」が完成し、平城京への遷都の準備中でもあった矢先、現在の関東地方の武蔵国秩父郡で和銅が発見された。遷都などで大量の資金が必要としていた政府は、中国などに習って貨幣発行の準備していたところでもあり、政府は年号まで「和銅」と改元して、わが国最初の公鋳貨幣を発行したのである。和同開珎は唐の時代に発行された「開元通宝」がモデルとされているが「開元通宝」は、始皇帝が銭貨を統一する際から中国で用いられた円形方孔貨となっていた。

和同銅銭には1個1文の価値が付され、江戸時代末までの約1200年間にわたってわが国貨幣制度のなかで重要な役割を果たした銭貨の基礎がこれによって構築された。

和同開珎以前に存在した貨幣として上記の「無文銀銭」と共に「富本銭」が知られているが、「和同開珎」が広範囲に貨幣として流通した日本最古の貨幣として認識されている。「和同開珎」は畿内とその周辺では貨幣として使われたようだが、地方では富と権力を象徴する宝物としてしか使われなかったとされている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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