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国債の価格と利回りが反対に動く理由

久保田博幸金融アナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

国債価格が上昇すれば国債の利回りは下がるし、国債価格が下降すれば国債の利回りは上がる理由を知ることは、債券そのものを理解するための第一歩となるが、その理由はなかなか理解しにくづらい面がある。そこで、簡単な例をもとに説明してみたい。

利回りは、利子つまり利率に加えて、債券の価格(時価)と償還額面金額との差額を、残存年数で割ることによって算出される年当たりの差損益を加えたものとなる。利回りとは、その債券がもたらす「年当たりの収益」の割合である。

年当たりの収益とは、償還差損益(債券価格と額面金額の差額)を残存期間(年数)で割ることによって算出される年当たりの差損益に、利息を加えたものだ。この年当たりの収益を債券価格で割ることで、利回りが出る。

例えば、残存期間10年、額面金額100円、利率1.5%の国債があり、半年ごとに0.75円ずつ(年1.5円)の利息が支払われるとする(計算を簡単にするため非課税と仮定する)。

この国債の価格が、額面金額と同じ100円だった場合、年当たりの「利回り」は、利率と同じ1.5%となる。

ところが、もしこの国債の価格が90円だった場合、100円-90円=10円が償還差益となる。したがって、年当たりの差損益は10円÷10年=1円だ。この1円を利息の1.5円と合算した収益は2.5円となる。この2.5円を債券価格90円で割ると、この国債の利回り(2.77%)が出る。

では、国債の価格が110円だったらどうだろうか。今度は反対に1年当たり1円の差損となる。利息と合算すると収益は0.5円だ。これを債券価格110円で割って出した0.45%が、この国債の利回りとなる。

つまり、同じ利率1.5%の債券でも、価格が90円のとき利回りは2.77%であり、100円のとき利回りは1.5%であり、110円のとき利回りは0.45%となるわけだ。ここから債券価格が高くなると利回りが低下し、債券価格が安くなると利回りが上昇する仕組みが分かると思う。

ちなみに利回りには、債券の保有期間の違いから3つの呼び方がある。債券を購入してから満期前に売却するまでの利回りを「所有期間利回り」という。また、新発債を最終償還日まで所有した場合の利回りを「応募者利回り」、すでに発行されている債券を償還日まで所有した場合の利回りを「最終利回り」と呼ぶ。

今度は、利回りをベースに考えてみよう。

長期金利が何らかの理由で1.5%から2.8%あたりに急上昇したとしよう。上昇する前に発行された10年債は、年1.5%の利息しかもらえない。しかし、新たに発行される10年債の利率は、長期金利の上昇を受けて、2.8%程度に引き上げられることになる。

当然ながら、利率1.5%の国債を買うよりも、利率2.8%の新発債を買ったほうがよい。したがって、利率1.5%の国債の人気は落ち、この債券の価格は下がる。

ところが、ある一定水準(90円近辺)になると下げ止まる。なぜなら償還差益で利率の差が埋まるため、利回りで比較すると収益性がほぼ変わらなくなるからだ。

では反対に、長期金利が1.5%から0.45%あたりまで急低下したとしよう。新たに発行される10年債の利率は0.5%となる。したがって、金利が急低下する前に発行された利率1.5%の10年債の人気が上がるだろう。

それでも、この利率1.5%の国債の価格は110円あたりで落ち着く。利回りベースで同じ水準となる価格まで上昇するためである。

債券の利回り=(表面利率+(額面100-債券価格)÷残存期間)÷債券価格×100

債券価格=(100+表面利率×残存期間)×100÷(100+利回り×残存期間)

いかがであろうか。これで債券の利回りと価格の関係が理解できたのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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