日本では何故、永久国債は発行できないのか

(写真:ロイター/アフロ)

バーナンキ前FRB議長が今月11日から12日にかけて、安倍首相や黒田日銀総裁と会談したことで、市場ではヘリコプターマネーへの思惑が出ていた。そのヘリコプターマネーについては人によって解釈が異なるが、今回について言えば「政府が市場性のない永久国債を発行し、これを日銀が直接全額引き受ける」との認識で捉えられていたかと思われる。

日銀による国債の直接引き受けは、高橋財政による日銀の国債引き受けが結果として戦後のハイパーインフレの大きな要因とされたことで戦後に制定された財政法の五条で「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない」として禁止されている。

しかし、「但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」との抜け道も用意されている。実際に過去、この但し書きにより、日銀が保有している国債が満期償還を迎えると、1年間に限って現金償還を延長し、現金の代わりに短期国債を発行し、それを日銀が引き受けるという手段をとっていた時期が存在した。むろんだから日銀による国債の直接引き受けは実質的に可能であり、しても良いと言っているわけではないが、絶対にできないものではない。

そして今回のヘリコプターマネーとされる解釈にはもうひとつの障壁が存在する。それが永久国債(コンソル債)である。かつて英国では、国債はこの償還期限のないコンソル債が主体であった時期があったぐらいにそれほど特殊な債券ではない。ただし、この永久国債を日本で発行しようとしても簡単にはできない。それは国債には当然ながら発行するために関係する法律が存在しているためである。建設国債は財政法、赤字国債は発行するたびに特別法を制定して特例により発行されている。さらに下記のような償還の仕組みも存在している。

一般会計の各年度の歳出財源を賄うために発行される国債(つまり建設国債と赤字国債)の償還は、すべて国債整理基金を通じて行われている。国債整理基金に関する法律である特別会計法の第四十二条には、「国債(一般会計の負担に属する公債及び借入金(政令で定めるものを除く。)に限る。以下この項及び次項において同じ。)の償還に充てるために繰り入れるべき金額は、前年度期首における国債の総額の百分の一・六に相当する金額とする。」とある。

何のことかわかりにくいが、要するに建設国債と赤字国債は60年かけて償還されるという「60年償還ルール」が存在している。

1965年度に戦後初めて発行された国債(特例国債、7年債)は、その満期が到来する1972年度に全額現金償還されたが、1966年度以降に発行された建設国債については、発行時の償還期限にかかわらず、すべて60年かけて償還される仕組みが導入された。これは公共事業によって建設された物の平均的な効用発揮期間、つまり使用に耐えられる期間が、概ね60年と考えられたためである。これが国債の60年償還ルールと呼ばれるものである。これに基づいて発行される国債が借換国債もしくは借換債と呼ばれている。

1985年からは建設国債だけでなく特例国債(赤字国債)にも借換債の発行が認められることになった。これは1970年代後半から国債の大量発行が続き、1972年に国債発行の中心となるものの年限が7年から10年に延長されており、1970年代後半の10年後には大量の国債償還・借換えに対応する必要が出てきた。この際に厳しい財政事情のもとでそれを現金償還するとなれば、極端な歳出カットが求められることになるため、特例国債についても借換債の発行を行わざるを得なくなったためである。

このため、歳出財源を賄うための国債として永久国債を発行しようとするとこの60年償還ルールに引っかかってしまうのである。もちろんこれについても新たな法律を作ってそれを発行根拠法とした上で新たな国債として永久国債を発行するなりといった手段もあり、絶対に無理というわけではない。しかし、それには法律を制定するなりの手続きが必要となり、簡単には発行できるものではないし、それは日銀の仕事でもないのである。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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