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マネタリーベース増加の意味が不明に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Motoo Naka/アフロ)

2月26日に発表された1月の全国消費者物価指数は、生鮮食料品を除くいわゆるコア指数が前年同月比ゼロ%となった。日銀の物価目標となっている総合も前年比ゼロ%、食料及びエネルギーを除く総合はプラス0.7%となった。この消費者物価指数を見る限り、日銀の物価目標の前年比プラス2%からは大きく乖離した状態が続いていることがわかる。

日銀の黒田総裁は23日の衆院財務金融委員会で、「マネタリーベースの動きと期待インフレ率は相関関係があるという研究もあるし、そうでもないという研究もある」と指摘し、「マネタリーベースそのもので直ちに物価、あるいは予想物価上昇率が上がっていくということではなくて、全体としての量的・質的緩和の下で需給ギャップも縮み、予想物価上昇率も上がっていく中で物価が上昇していくことを狙ったものだ」と述べた(ブルームバーグ)。

日銀が2013年4月に導入した量的・質的緩和政策には、2012年12月に誕生した安倍政権の意向が強く反映されている。アベノミクスと呼ばれた政策の中心になっていたのが異次元の金融緩和であり、その発想の元になっているのがリフレ派と呼ばれた人々の考え方であり、その代表者が岩田規久男氏であった。その岩田規久男氏が安倍政権により日銀の副総裁に起用された。

副総裁となってからの岩田氏の発言はかなり慎重となっていたため、副総裁以前の岩田氏の発言を検索したところ、2011年2月の東洋経済とのインタビューで下記のようなコメントをしていた。

「日銀が1年半から2年程度でインフレ目標を達成するとコミットし、大量の長期国債買いオペでマネタリーベースを増やす。そうすると、予想インフレ率の上昇から、予想実質金利が低下し、株価が大幅に上昇して投資と消費が増える。一方、実質実効為替相場で見て円の価値が下がり、輸出が増加し、輸入品との競争力も高まって内需も増える。この二つのルートから、総需要が持続的に増加し、デフレ脱却ができる。」

日銀は2013年4月に異次元緩和を決定したわけだが、これは安倍自民党総裁が2012年11月に予告したものを現実化したものであった。このアベノミクスは急激な円安株高を招くことになった。一時的にしろコアCPIは前年比プラス1.5%にまで上昇した。しかし、この要因はその後の物価動向などをみても、予想インフレ率の上昇にあったとは考えづらい。むしろ円安株高の背景は世界的なリスク要因の後退にともなう、円買い株売りのアンワインドをヘッジファンドが仕掛けたものであった。この円安による影響や消費増税の駆け込み需要なども加わって一時的に物価は上昇した。しかし、原油安などの要因であっさりと物価上昇率はゼロ近辺に戻ってしまっている。

日銀は量的・質的政策にマイナス金利を加えたが、そもそもこれは国債買入には限界があることを改めて示すことになるとともに、マネタリーベースの動きと期待インフレ率は相関関係がなかったことも示すこととなった。つまりマネタリーベースをいくら増加させても物価は上がらないことを自ら証明してしまったことで、矛先を金利に変えたともいえる。

しかし、矛先を欧州のようにマイナス金利に変えたところ、今度はその副作用が各所に見えてきた。国債市場から投資家を閉め出すようなことになり、金融機関は収益が圧迫され、ベアも見送るところも多いようである。岩田氏などが提唱し、安倍政権がそれに乗って、黒田総裁を中心に日銀が行った異次元緩和はまるでフリーランチのような政策にも見えたが、その副作用が大きいことは今後明らかになってくるであろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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