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マイナス金利はある意味、恐怖

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

25日付けの日経新聞によると、金融界で今春の労使交渉で従業員の基本給を底上げするベースアップ(ベア)を見送る動きが一段と広がってきたそうである。「みずほフィナンシャルグループ」の労働組合は今年の春闘で、基本給を引き上げるベースアップの要求を3年ぶりに見送る方針を固めたそうである。損保保険ジャパン日本興亜の労組も2年ブリに同要求を見送る方向のようで、すでに三井住友銀行や東京海上自動火災保険の労組もベア要求を見送る方針を固めているそうである。

この背景には、日銀のマイナス金利政策の導入により、経営環境が厳しくなっていることがある。皮肉なことに、賃金の上昇などによる物価上昇を目指すはずのマイナス金利付き量的・質的緩和政策は、日銀のお膝元の金融機関への収益を圧迫し、ベースアップどころではない状況を作り上げている。まさに即効性のある政策ではあったが、結果は正反対の方向に出ている。

もちろん金融機関の収益を多少なり圧迫することは百も承知のマイナス金利政策であったかもしれないが、これだけで簡単に貸し出しが伸びたり、ポートフォリオのリバランスが生じたりすることは考えづらい。むしろ弊害の方が危惧され、リスク資産への投資も手控えさせるような状況になりつつある。

量的・質的緩和やマイナス金利は、レジームチェンジを図ることがひとつの目的であったのかもしれないが、それだけで人々の意識が簡単に変えられるものではない。バズーカ1と2については、円安株高の流れを維持もしくは加速させたことで、効果があったかのように見えたが、あくまで外部要因が味方した。しかし、マイナス金利の導入のタイミングでは外部要因はまさに逆風となっており、日銀の追加緩和程度ではその流れを変えることはできなかった。そもそも金融政策は流れを加速することはできても、押し返す能力はない。イングランド銀行がジョージ・ソロスに負けた事例を持ち出すまでもなくこれは為替介入などにも言えることである。

つまりマイナス金利政策は目的であったであろう金融市場の流れを変化させることはできず、人々の不信感を強めさせることになってしまった。貯蓄好きとなっている日本人にとって金利がマイナスになることはある意味、恐怖でしかない。

リスク資産に振り向けようとしても年初からの急激な株安があり、海外資産に振り向けようとしても急激な円高となり、むしろこれまでリスク資産に資金を投じていた人たちが大きな損失を抱える結果となっている。原油安とその原因であるところの新興国経済の減速は、新興国通貨も下落させており、右肩上がりの相場では見えなかったリスクが顕在化しているのがいまである。

このような状況下、あまり金融に知識のない預貯金重視の個人投資家にリスク資産を勧めるべき状況にはない。逆張り的な発想もあるかもしれないが、ここがボトムという保証もない。しかし、安全資産とされる資産(国債や預貯金)の金利は日銀に奪われてしまった。そこまでして日銀はいったい何をしたいのか、そのあたりの説明も求められよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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