物価の新コアコアもピークアウトする懸念
日銀の黒田総裁は12月24日の日本経済団体連合会審議員会における講演で物価に関して次のように発言していた。
「物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、1年を通じて概ねゼロ%程度で推移しました。もっとも、これは主としてエネルギー価格の下落によるものであり、物価の基調は着実に改善しています。生鮮食品に加えてエネルギーも除いた消費者物価をみると、2013年10月に前年比プラスに転じた後、25か月連続でプラスを続けており、直近ではプラス1.2%まで上昇しています。これほど持続的な物価上昇は、1990年代後半に日本経済がデフレに陥って以降、初めての経験です」(日銀サイトの講演要旨より)。
25日に発表された11月の消費者物価指数は指標となっている生鮮食品を除く総合(コア)で前年同月比プラス0.1%と5か月ぶりのプラスとなった。日銀の物価目標となっている総合ではプラス0.3%、食料及びエネルギーを除く総合(コアコア)ではプラス0.9%、さらに日銀が算出している生鮮食品及びエネルギーを除く総合(新コアコア)ではプラス1.2%となった。
日銀が発表している「消費者物価の基調的な変動」のなかの生鮮食品及びエネルギーを除く総合の2000年以降のグラフをみると、確かに2013年10月に前年比プラスに転じた後に上昇を続けている。それではその上昇が継続されている理由は何であるのか。黒田総裁としては、2013年4月の日銀による量的・質的緩和の決定から半年程度の時間をおいて効果が浸透し、結果に結びついているという見方をしているのかもしれない。
しかし、日銀の示すグラフをみるとすでにトレンドとしては2010年から上向きとなり、それがプラスに転じたのがたまたま2013年10月であったようにもみえる。今回のプラス浮上の前にプラスに転じた2007年末から2008年の状況を確認してみると、2007年2月に日銀は利上げを決定しており、仮に金融政策が物価に働きかけると仮定すると、金融引き締めにより物価がプラスに転じたように映る。
2007年末から2008年にかけての物価上昇の最大の要因は原油高にあったはずである。2007年8月にはパリバショックも発生しており、金融市場はかなり不安定となっていたが、中国などの新興国経済の高成長を材料に原油価格が一本調子で上昇していた。これがエネルギー関連だけでなく、全体の物価を押し上げた格好となっていた。その原油価格が急落し、リーマン・ショックに代表される世界的な金融経済危機が相まって、物価が大きく落ち込むことになる。その後の欧州の信用不安もあったが、2010年頃に物価は底打ちした格好となったのである。
物価が日銀の金融政策で動くわけではないのは上記の例からも明らかではなかろうか。日本の物価に関しては予想物価とかではなく、原油価格や為替による直接的な影響が大きいように上記グラフからも伺える。そうなると原油価格はすでにWTIで30ドル台に下落しており、円安トレンドも変化しつつあるなか、黒田総裁の「消費者物価の基調的な変動」を示すという生鮮食品及びエネルギーを除く総合についても、そろそろピークアウトする可能性があるのではなかろうか。もしそうなると、異次元緩和で物価を動かそうとした試みが成功したわけではないことを改めて示すことになりはしまいか。