携帯料金引き下げでデフレ解消になるのか
安倍首相は9月11日の経済財政諮問会議で、「携帯料金等の家計負担の軽減は大きな課題だ」と述べ、高市総務相に携帯電話料金の引き下げ方策を検討するよう指示した(読売新聞)。
家族分の携帯料金をほぼ負担している私としては、携帯電話料金の引き下げはぜひ進めていただきたいと思うが、個人的な事情はさておき、これがデフレ圧力を強めるとの見方と、デフレ解消に効果的と極端に見方が分かれている。
もちろん携帯電話料金が消費者物価指数などに影響を与える割合は小さくはない。つまりこれは素直に物価低下圧力に繋がると思われる。しかし、安倍首相は家計負担を軽減して消費を拡大するには携帯料金の値下げが欠かせないとしている。消費が伸びればいずれは物価上昇圧力に繋がるという理屈である。また、これは三本の柱のひとつ成長戦略に絡んだ規制緩和の一環との見方もある。それはさておき、ここには個別物価と一般物価は違いという問題も含んでいるように思われる。
個別価格は消費者の需要と供給量の関係だけでなく、景気物価動向、為替の動向等をみながら供給者が決定するものと思われるが、一般物価は日銀の金融政策により決まるというのが、岩田日銀副総裁などリフレ派と呼ばれる人たちの主張となっている。
個別物価に関係なく、日銀がしっかり金融緩和を行えば物価は上がるという発想である。だから日銀は異次元緩和を二度も行ったが、物価はいっこうに上がっていない。そもそも2014年10月の二度目の異次元緩和の理由は「原油価格の下落」に伴う影響、つまり個別物価に関わる影響を受けてのものであったはずである。
一般物価と呼ばれているような物価は存在せず、あくまでそれは個別物価の集合体ではなかろうか。そもそも日銀の物価目標は消費者物価指数であり、それは個別の価格の変化によって構成される。つまり、もし携帯料金等が引き下げられれば素直に消費者物価指数にはマイナスの影響を与える。私の場合も携帯料金が仮に引き下げられることで、少し家計には助かった程度になるのではないかと思う。それが消費を拡大するためのインパクトになることも考えづらい。ただし、もしそれが規制緩和に繋がるものであれば、あらたな商機を拡げる可能性はある。しかし、単純に携帯料金の引き下げだけを要請するのであれば、その目的は支持率アップなのか、それともそれでデフレ解消になると考えてのことなのか。
携帯料金引き下げでデフレ解消になるとの発想と一般物価との発想は通じるものがある。それは期待インフレなどにも通じるものなのかもしれない。しかし、少なくとも金融政策で物価が動かせるということは、今回の日銀の壮大な実験で結果は出ていると思われる。金融政策で一般物価が上がらなかった。それは原油価格の下落によるものであれば、それは個別物価のことではなかろうか。消費増税が影響したのだとすれば、金融政策だけで物価は動かせないことをむしろ示した格好にもなる。財政健全化などをさておいて、物価を上げる支障を取り除くため消費増を元に戻したとしても、それで物価が上がる保証もない。
金融政策で物価が自由にコントロールできないとなれば、当然インフレ時にもインフレターゲットを採用しているから金融政策で物価上昇は抑えられるという主張もかなり疑問となる。