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7月に日本国債を大きく売ったのは誰

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

日本証券業協会(JSDA)は8月20日に7月の公社債投資家別売買高を公表した。これは日本証券業協会の協会員、つまり証券会社から、当月中に取り扱った公社債の一般売買分(現先を除き、国債の発行日前取引を含む)の状況についての報告を基に集計したものである。

発表される公社債投資家別売買状況のデータは、全体の数字と短期債の数字となっている。このため、短期債を除く債券のデータについては、全体から短期債を引いたものを使う。ここには国債入札で購入した分や日銀の国債買入分は入っていない。

7月に都銀は8374億円の売り越しとなった。6月の都銀は2014年6月以来、1年ぶりの買い越しとなっていたが、売り越しの基調は変わっていなかったようである。同時に公表された国債投資家別売買高でみると、都銀は超長期債を3575億円、長期債を1123億円買い越していたが、中期債を1兆2887億円売り越していた。

信託銀行は1298億円の売り越しに。ここにきて買い越しが続いていたが、7月は中期債を売り越していた。年金による国債ポジションの圧縮は一服しているが、大きく買い戻す感じではなく、中期債から長期・超長期債に乗り換えてデュレーション(平均残存年数)をやや長めにしているようである。

農林系金融機関、第二地銀、信金、その他金融機関もそれぞれ金額は大きくないが売り越しとなった。これに対して地銀は長期債主体に、生損保は超長期債主体に小幅買い越しとなった。

7月で注目すべきは外国人の買越額で、6月が4385億円の買い越しになっていたのに対し、7月は2兆4888億円の買い越しとなっていた。こちらは13か月連続の買い越しとなった。外国人は超長期債を842億円、長期債を8102億円、中期債を1兆5806億円それぞれ買い越していた。

ギリシャへの懸念の強まりにより、逃避的な海外投資家の日本国債への買いが中短期主体に入っていたものと思われる。7月5日にはギリシャの国民投票が実施されるなどギリシャ問題は混迷の度を深めていたところに、上海株の急落なども重なった。13日の夜に長時間に及ぶ会議の末、ユーロ首脳会議ではギリシャ支援に合意し、ギリシャへの懸念はその後、後退してきた。しかし、原油安による世界的なディスインフレへの懸念も出てきたことで、中短期債主体に海外勢の買いが増加したもの考えられる。

ただし、ここで注意すべきは海外勢の2兆円を超す買い越しに対して、2兆円を超える売り越し主体が存在していたことである。「その他」が2兆1429億円の売り越しとなっていた。7月は中期債を7039億円、長期債を6559億円、超長期債を1兆2140億円それぞれ売り越していた。「その他」のなかでは具体的にどの金融機関が売り越していたのかはわからないが、参考までにゆうちょ銀行などは「その他」に入っている。これほどの金額を動かせる主体としては、ゆうちょ銀行などしか考えられないが、いずれにしてもある主体が日本国債を売却し、その分、米国債などを購入していたような可能性がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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