異次元緩和の副作用
リーマン・ショックや欧州の信用不安といった世界的な金融経済リスクに対し、日米欧の中央銀行は非伝統的とされる金融政策を大胆に打ち出した。これは市場の不安を後退させたものの、市場は過度に中央銀行の金融政策に依存するようになってしまった。日銀は異次元緩和のために国債やETFなどを大量に買い入れることで、市場に大きく関与するようになり、市場の価格形成に影響を与えるような事態になっている。これにより市場の最も重要な機能である「価格発見機能」の低下という事態が起きた。国債の利回りは国の財政をチェックする重要なシグナルとなるべきところが、日銀による大量の買入で、そのようなチェック機能を喪失しつつある。
中央銀行が国債を大量に買い入れることにより、長期金利が押さえ込まれ、それは政府の利払い費用を押さえ込むことになる。巨額の債務を抱えていても利払い費が押さえ込まれれば、財政悪化は表面化しないことになり、これは金融抑圧となる。問題はこれがいつまで、どの規模まで維持できるか、そして許されるかとなろう。
日銀の大量の国債買入の目的はあくまでデフレの解消だが、結果として国の財政を助けている。今後物価が上昇するなり、日本の債務への不安が表面化した際には、日銀の大規模な国債買入が財政ファイナンスと認識される懸念もある。
日本の長期金利は15年以上も2%以下に抑えられている。長期金利の低迷の原因は、バブル崩壊による金融不安をきっかけにデフレの状態が恒常化し、雇用体系の変化も加わり賃金も上昇しないような状況が続き、日銀がゼロ金利政策、量的緩和政策、包括緩和政策、量的・質的緩和等の積極的な金融緩和を行ったためだ。短期の金利はマイナスとなり、一時は残存6年程度の国債利回りもマイナスとなった。長期金利は上がらないとの認識は強まり、長期金利が大きく上がったという経験をもつ市場参加者も少なくなった。
日銀の異次元緩和は国債を大量に買い入れて、マネタリーベースを思い切って増加させて、インフレ期待を強めるものである。国債を大量に買い入れることで本来あるべき国債の利回りを押さえつけ、これによるポートフォリオのリバランス効果も狙いとなっている。
もし日銀の目的が果たせたとなれば物価は2%程度に上昇しよう。金利は本来物価に連動することで、いずれ押さえつけられていた金利が大きく上昇する事態を招くことにもなりかねない。ところが、異次元緩和は2年という期間で物価を上昇させていない。これは物価は日銀の金融政策で簡単にコントロールできるものではないことを示している。つまり何かのきっかけで物価が大きく上昇した際に、日銀がインフレターゲットを採用しているからその物価上昇を抑えられるのかという疑問が生じる。異次元緩和の副作用として最も注意すべきは異次元緩和に効果がなく、大量の国債を買ってしまったという事実が残り、それが財政や金利に影響を与えてしまうリスクといえよう。