長引いたユーロ首脳会議の背景
7月12日のユーロ圏財務相会議が長時間に及び、EU全体での首脳会議はキャンセルされ、ユーロ圏19か国による緊急首脳会議だけとなった。あくまで内容の詰めは財務相会議で行い、首脳会議はそれを確認してサインをする場となると思われたが、財務相会議での結論は持ち越され、本当の論戦はこの首脳会議で行われた。
12日の午後に始まったユーロ圏首脳会議は約17時間に及ぶ徹夜の会議となった。国のトップ同士がこのような長時間に及ぶ会議を行うこと自体、極めて異例のように思える。その結果は欧州連合(EU)のトゥスク大統領が説明したように「全会一致で合意」した格好ではある。しかし、この時間の長さが示すように、かなりぎりぎりの攻防戦が繰り広げられていたようである。
この攻防戦の主役はドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、そして当事国のギリシャのチプラス首相となる。
チプラス首相はこれまでの協議において、どのような戦略を持っていたのかは定かではない。少なくとも国民投票までは支援策を巡ってドイツとの対立姿勢を強めた。このためドイツ側はチプラス首相に対して不信感を強め、安易な妥協は許さじとの姿勢となっていた。ドイツからギリシャの一時的なユーロ離脱を提案するほどになっていたぐらいである。このドイツの姿勢にフィンランドやオランダも同調。北部欧州や東欧諸国などはドイツ側に付いていたようである。
これに対し、フランスのオランド大統領はギリシャに対して穏健な態度をとっていた。チプラス首相は、オランド大統領を頼みの綱としたようである。こちらにはイタリアなどの大きな債務を抱える南欧諸国も同調していたとみられる。財務相会議ではドイツのショイブレ財務相がドラギECB総裁を激しく非難し会議が一時中断したとの報道もあった。
ギリシャへの支援策を巡ってドイツとフランスを代表とする攻防戦が続き、このままではギリシャのユーロ離脱という最悪の事態を引き起こしかねない事態となった。このため、ルクセンブルグなどが妥協案を示し、ギリシャをユーロ圏に止める代わりに、国有財産の監視や構造改革案の即時法制化などを認める妥協案が成立した(読売新聞)。
チプラス首相は自国経済の破綻を意味しかねないユーロ離脱との選択肢はとれなかったはずである。それでも債務減免などを引き出したいところではあったが、ドイツなどの強硬的な態度の前に屈せざるを得なかったとみられる。ただし、債務減免はなくても返済期限の延長といった軽減策は検討されるようである。
ユーロ首脳会議ではギリシャに対して条件付きながら支援策を合意した。ただし、これにはギリシャが15日までに増税や年金改革などの主要な財政法案を議会で可決させることが条件となる。さらに、ギリシャは500億ユーロ相当の国有財産を売却し、債務返済などに充当させることも求められる。そういった条件がクリアーされて初めて、最大860億ユーロがESMを通じて融資される手続きがはじまる。
本当にギリシャは増税や国有財産の売却などを受け入れるのか、今回の会議でユーロ内の亀裂が生じたのではないのか、さらには今回も結局、ギリシャの債務問題そのものは先送りされただけといった問題は残る。しかし、ギリシャのユーロ離脱という最悪の事態はどうやら避けられそうである。