ギリシャに助け船を出したフランス
12日のユーロ首脳会議に先立ち開催されたユーロ圏財務相会議では、支援交渉を開始するためには、ギリシャが税制や年金制度の改革などの措置を15日夜までに法制化する必要があるとし、ギリシャが経済改革法を成立させることを条件とした。財務相会合は長時間に及びEU首脳会議はキャンセルとなった。その後、長時間に及ぶユーロ首脳会議が開始された。
財務相会合ではドイツやフィンランドなどから、ギリシャへの改革案に対し不十分だとする声が上がったほか、改革を本当に実現するのか、疑問視する声が相次いだそうである。
そもそもなぜ国民投票の結果にも関わらず、ギリシャは歩み寄りを見せたのか。これについては12日付けの日経新聞が、興味深いことを報じていた。ギリシャで国民投票があった5日の夜にチプラス首相がフランスのオランド大統領に「ユーロ圏に残りたい」と電話で頼み込んだそうである。
国民投票では6割がEU側の求めた緊縮策に反対し、これがチプラス政権の基盤固めとなった。国民を裏切る格好とはなってしまうが、ユーロ残留のための財政緊縮策に対して、ギリシャ国会で承認を受けることができることになる。ただし、それまでの債権団との交渉過程ではギリシャが強気姿勢で望んでいたことで、亀裂が生じていた。その修復のためにフランスのオランド大統領に仲介役を頼んだものと思われる。また、強硬派のバルファキス財務相を辞任させたのもこれが理由であろう。
ギリシャが出した財政再建策については、フランスが新しい提案の調整を手伝ったとの観測もあった。ギリシャ財務相の助言役に10人の財務官僚を派遣したとの報道もあり、フランスが手を貸したであろうことは確かである。
そもそもフランスはギリシャに対してはこれまでも穏健な態度をとっていた。しかし、ドイツのメルケル首相の影に隠れ、あまりその存在が意識されることはなかった。ここでチプラス首相に助け船を出すことは、オランド大統領の存在感を強めさせることも可能となる。
オランド大統領はチプラス政権が出した財政改革案に対して「真剣で信頼できる」と評価していたが、これはある意味当然であった。そして、ドイツもこの動きを黙認していたことで、これで交渉は成立かと思われた。しかし、フィンランドなどが合意文書に同意しなかったことで財務省会合では成立とはならなかった。さらに、支援の条件をもし満たせなかった場合には一時的にユーロ圏から事実上離脱させるというドイツ案も出ていたとか。
会合の席上、ドイツのショイブレ財務相がドラギECB総裁を激しく非難し会議が一時中断したとの報道もあった。ゲルマン民族とラテン民族の対立が会合内でも起きているようである。
ドイツとしても地政学的にギリシャのユーロ離脱は望んではいないとみられるが、これまでの交渉過程でギリシャに対する不信感を強めている。しかし、そこに大国フランスが仲裁役として出てきた。フランスに仲裁を頼んだチプラス首相も自国経済を混乱に陥れるユーロ離脱は避けたいところであろう。そのためには、改革の意思をはっきり示すため経済改革法を成立させる必要がある。