市場の視線はギリシャから米国の利上げに
7月1日の日本時間の夕方6時あたりに、急に相場が動き始めた。外為市場ではユーロが買われ、ドイツや米国の国債は下落し、日経平均先物(夜間取引)も上昇した。要因はFTがギリシャのチプラス首相が債権団の救済策を一部変更の上で受け入れと書簡で表明していたことが報じられたためであった。
この報道でギリシャ問題は解決に向かうのではないかとの楽観的な見方が出たことで、ユーロが買い戻され、リスクオンの動きから米国やドイツ、英国の国債は下落し、欧米の株式市場は上昇した格好ではあった。
ところが、チプラス首相はこの日のテレビ演説で、欧州連合(EU)が求める緊縮策を受け入れるかどうかの国民投票を5日に実施すると改めて表明した。強硬姿勢を崩さず、反緊縮姿勢が変わっていないギリシャに対しEUは不信感を強め、国民投票まで支援再開の交渉を棚上げする方針を示した。
結局、ギリシャ問題は何ら進展せず、5日の国民投票の結果待ちの状態に変化はなかった。それにも関わらず1日の欧米の株式市場は上昇し、ドイツや米国、英国の国債は下落した。そして、イタリアやスペインの国債は買われていたのである。
FTのフラッシュニュースで反応してしまったのであれば、ギリシャ問題に進展なしとの追加報道で反対売買が起きて元に戻るということも考えられたが、株や国債の動きを見る限り、すでにギリシャ問題の影響度は後退し、むしろリスクオンとなる材料に反応しやすい地合となっていたとみられる。
EUは1日午前0時に支援を停止し、IMFは債務の返済を受けられなかった。ギリシャは債務の延滞国扱いとなり、事実上の債務不履行(デフォルト)に陥った。
もちろんギリシャの国民投票の結果次第では、ギリシャが正式にデフォルトとなり、場合によるとユーロ離脱の懸念すら出てくる。しかし、ギリシャのデフォルトによる民間金融機関への影響は限定的であり、ここから新たな金融不安が生じる懸念はほとんどない。むろんギリシャの国内銀行には影響は出ようが、グローバルな影響が出ることは予想しづらい。ギリシャの国債も民間の保有額は極めて限定的である。
ユーロ離脱となれば、ユーロというシステムそのものに亀裂が走る懸念はあるものの、ギリシャがその選択肢はとりづらい。チプラス政権はいったい何を考えているのかは読み切れないが、自国をさらなる危機に陥れる政策を取ることを国民が果たして許すのであろうか。それでも仮にギリシャがユーロ離脱となり、政治上のパワーバランスに変化が生じても、金融のリスクバランスの上での影響は限定的との見方もできるかもしれない。
いずれにせよ、5日のギリシャの国民投票の結果は注目されるが、市場はすでにギリシャ問題をさほど重要視しなくなり、2日に発表された米雇用統計の内容などをみながら、視線は再びFRBの利上げに向けられていく可能性がある。
2日に発表された6月の米雇用統計では、非農業雇用者数は前月比22.3万人増と予想をやや下回り、前月分も下方修正された。失業率は5.3%に低下し、7年ぶり低水準となるが、労働参加率は1977年10月以来の低水準に。平均時給は前月から横ばいとなり、前年比で2%の伸びに止まった。市場ではこの内容を受けて、FRBは利上げは急がずとの見方となったようだが、FRBの年内利上げというスタンスに大きな変化があるとは思えない。