FRBと日銀の金融政策は似て非なり
日銀の岩田副総裁は以前の国会での質疑応答で、日銀の量的・質的緩和政策はバーナンキFRB前議長の政策と全く同じと答えたそうである。仮にこれが黒田日銀以前の金融政策であれば、この発言はある程度納得できるが、現在の黒田日銀の異次元緩和はFRBのQEと一般に呼ばれた政策とは似て非なりである。
インフレ・ターゲットを主張していたのはバーナンキ教授であったが、バーナンキ教授がFRB議長になると主張していたインフレ・ターゲット政策は封印した。FRBは2012年1月に物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。しかし、これはガチガチのインフレ・ターゲットとは異なるものである。あくまでひとつの目安であり、それに向けて邁進するような政策ではない。物価目標の設定についてはインフレ目標やインフレターゲットを連想させるが、特にその数値に法的な拘束力などがあるわけではなく、あくまでECBの「物価安定の量的定義」や当時の白川日銀の「物価安定の理解」に近いものである。
さらにFRBによる国債やMBSの巨額の買入についても、日銀の量的・質的緩和とは目的そのものが異なるし、そもそもFRBの国債買入をQEと呼んだのは市場参加者であり、FRBはこれをLSAPと別な呼び方をしていたぐらいである。日銀は政策目標をマネタリーベースに置いたが、FRBはあくまで月々の国債とMBSの買入額を目標値にしていた。そして、日銀がその目的を物価目標達成としていたのに対し、FRBは基本的に住宅ローン等も意識して国債やMBSなど長め金利の低下を促すことを目的としていた。ここが根本的に異なる点となる。
これについて最近、日銀が企画局から出した『「量的・質的金融緩和」:2年間の効果の検証』というレポート(日銀レビュー)では、マネタリーベースのことは一切触れず、まるで日銀はFRBの目的と同様に異次元緩和は長期金利の低下、つまりは実質金利の低下を促すことが主目的のようなとらえ方をしていた。これをみると本当の目的は物価目標ではなく、FRB同様に長期金利の低下にあり、その意味では当初の目的を達成させている的な解釈となっていた。国会での岩田副総裁の発言もこれを意識したものであったろうか。
しかし、日銀の異次元緩和の発想は岩田教授が主張していた貨幣数量説に基づいてたマネタリーベースを思い切って増加させることで予想物価を引き上げて物価目標を達成するものであったはずである。いわゆるリフレ派の主張であり、黒田日銀以前の日銀が否定的な見方をしていたものであったはずである。バーナンキ議長も昔はリフレ派の始祖のような立場にあったが、リフレ的な発言は議長就任後はほとんどしていない。日銀だけがいわゆるリフレ政策の壮大な実験を行っていることになり、これをFRBのLSAPと同じものとするのはかなり無理がある。
やはり日銀同様に大量の国債を買い入れているECBも量的緩和と言っているが、マネタリーベースの拡大を政策目標とはしておらず、政策目標はいまだ金利である。日銀だけが以前はタブー視されていたリフレ政策を実施したが、肝心の物価は上がらず、FRBのように簡単に出口政策を行うことすらできない状況に自ら追い込んでしまっている。