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地球温暖化とデフレの意味とその対処

久保田博幸金融アナリスト

例年と異なるような異常気象に対して「地球温暖化」との言葉を添えるだけで説明してしまっていることが多いように思う。地球温暖化が具体的にはどのように定義されているのかはわからないが、人為的なものに起因する気候の変動の意味で使われることが多いと思う。しかし、地球全体の気候が温暖になるサイクル的な自然現象である可能性もあるわけで、災害・被害をもたらす気象現象を地球温暖化という言葉で簡単に片付けてしまっていることが多い気もする。だから二酸化炭素を減らせとの議論になってしまうが、実際に温暖化の具体的な要因なのかどうかはさておき、原因と対策を地球温暖化に単純に絡めてしまって良いものなのであろうか。

日本の金融や経済を語る上では、この「地球温暖化」という言葉のように「デフレ」という言葉が一人歩きしている。デフレとはデフレーションの意味で、インフレ、つまりインフレーションとは反対の意味の言葉である。日本はデフレだから景気は良くならず、円高となり株価も低迷し、賃金は上がらない。デフレは貨幣的な現象であるため、デフレやインフレは金融政策によって操作が可能となる。他の要因による影響を排除しても、日銀が国債を思い切って購入し、マネタリーベースを倍にしさえすれば、物価は簡単に上昇する。非常に短絡的な説明かもしれないが、いまの日銀が行っている金融政策はまさにこの短絡的な根拠によるものである。

ところがいくらマネタリーベースを増やしても物価目標には、むしろ遠ざかりつつある。それは消費増税が悪い、原油価格の想定外の下落があったためとの説明されている。そうであったとしても、デフレが貨幣的現象であるなら、たとえばマネタリーベースの目標をいまから、さらに倍とクイズダービーのようなことをすればデフレは解消できるのであろうか。

そもそもデフレの要因が金融政策に起因とすることに問題はなかったのか。異常気象を地球温暖化という言葉で簡単に説明してしまうように、デフレで何でも説明してしまい、そのデフレを貨幣的現象で片付けてしまおうとしている現在の日銀の姿勢は本当に正しいものなのであろうか。

2013年4月の量的・質的緩和からまもなく2年が経過する。スタート直後から日銀が目標としていた物価は上がりだした。順調に前年比のプラスが1.5%あたりまで上昇したが、そのあと前年比は縮小してしまう。途中までの物価の上昇は、円安や原油価格の高止まりなどで説明は可能となる。しかし、その後の原油価格の下落等により、目標とする物価の前年比は縮小し、まもなくゼロからマイナスに落ち込むことが予想されている。それでも賃金は上がり、株価も上昇しているからアベノミクスの第一の矢は効いているとの説明がなされるが、その物価目標から遠ざかっているのに、何故、効果が出ていると言えるのであろうか。

今後の原油価格の反発を背景にした物価上昇に日銀が期待している姿をみると、マネタリーベースを金融政策の目標値にした意味がさらにわからなくなる。異次元緩和から2年が経過することで、日銀としてはその結果に対しての説明責任を負うことになる。2年という期間を曖昧に引き延ばして時間稼ぎをすることについてもあまり意味はないのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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