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FRBはWSJ記者を通じ意向を伝達

久保田博幸金融アナリスト

9月17日の日経電子版の米国株式市場に関する記事(電子版)に以下のような解説があった。

「米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの米連邦準備理事会(FRB)担当であるジョン・ヒルゼンラス記者が、事実上のゼロ金利政策を維持する期間について、FRBは声明で表現を変更はするものの従来の「相当の期間」との文言を基本的に維持すると指摘した。市場では利上げに前向きな表現に変わるとの見方がくすぶっていただけに、買い安心感が昼ごろから急速に広がった。」(日経新聞電子版より)

ひとりの記者のコメントで何故、これほど相場が動くのか。これについてはある程度、FRBの動向に詳しい方であれば今回の反応に、なるほど、と思うかもしれない。しかし、その理由がわからない方もいたかもしれない。

17日朝の牛さん熊さんの本日の債券では、下記のように指摘した。

牛「この記者は記事ではなく、速報性の強いウェブサイトのビデオで述べたそうやが」

熊「これがFRBの意思を表しているとの見方もできなくもなく、相場が大きく反応したのかな」

FRBがイエレン議長に代わっても伝統は変わっていなかったのか確信が持てず、やや曖昧な表現となってしまったが、これはFRBの意向がこの記者に伝えられて、それを記事のような格好で市場に伝達した可能性が高い。FRBの意向を表したものとの認識で市場も動いた。

FRBはこれまでマスコミを通じてのリークというか情報伝達を行っていたとの見方がある。相場に大きな影響を与えないようにするため、もしくは市場の反応を見るため、市場に事前準備をさせるために行っているのではないかとの観測は、かなり昔からあった。その担当者は、ウォール・ストリート・ジャーナルのFRB担当とされていたのである。

今回は記事というかたちではなく、速報性の高いウェブサイトのビデオを使ったことから、FOMCの開催中ではあるが、その結果をそれとなく市場に伝達し動揺を抑えようとしたのではないかと思われる。

市場では、FOMC後に発表される声明文のなかの、低金利を「相当な期間」維持する、の「相当な期間」という文言を削除するとの思惑が出ていた。10月のFOMCでテーパリングが終了する予定であり、市場は次のステップであるゼロ金利解除、つまり利上げの時期に目を向けている。もしこの文言が削除されるとなれば早期利上げ観測が強まり、市場は動揺しかねず、状況によっては市場が利上げを催促するような状況にもなりかねない。FRBはこのため、この文言は削除しないであろうことを、WSJの記者を通じて事前に知らしめたとみられる。

ただし、利上げについては当然視野に入る。利上げに向けての準備として声明文、もしくはイエレン議長の会見における表現のなかに、何かしらの但し書きが加えられるであろうことも、ヒルゼンラス記者は示唆していた。昨日のFOMC後に発表された声明文、及びその後のイエレン議長の会見はまさにそうなっていた。

FRBとしてはある程度のゼロ金利解除に向けてのロードマップは作成していることが予想されるが、そのようなものは存在しないという前提でコメントしてくるのではないと思われる。ただし、「相当な期間」の解釈については、相当先の話との印象から、状況次第ではそんなに先ではない可能性も織り込みたいのではないかと思われるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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