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日銀の疑似緩和とFRBの出口への地均しで円安加速

久保田博幸金融アナリスト

ここにきて円安の動きが強まり、特にドル円は106円台の後半をつけてきた。チャート上からは110円を目指して上昇するとの見方も出てきている。この背景のひとつに、日銀とFRBの金融政策の方向性の違いがあり、それをさらに意識させるようなことが起きていた。

日銀は2013年4月に量的・質的緩和を決定した。バズーカ砲とも例えられたように大規模な国債買入れを打ち出し、デフレ脱却を図った。ただし、バズーカ砲は何度も使えず、日銀も戦力の随時投入はしないと言っている。現実に異次元緩和以降、日銀は金融政策の変更は行っていない。行わずに済んだという説明も可能かもしれない。白川日銀から黒田日銀に代わってのスタンスの違いもあり、金融政策の微調整は行いづらいことも確かである。ところがここにきて日銀は、金融政策の変更は伴わないものの、結果としてそれと同様の効果が出るような動きを見せている。

そのひとつが、黒田総裁による円安容認発言であった。9月4日の記者会見において、黒田総裁は、円相場への質問に対して、為替レートの先行きなどについて特別なことを申し上げるつもりはありませんがと前置きしながら、「ファンダメンタルズの反映として、ドルが強くなっていくことは、何ら不思議でないと思いますし・・・為替レートがドル高・円安になっていくとしても、日本経済にとって特にマイナスということはないと思っています」と答えていた。

湾曲的な表現ではあるが、円安ドル高となっても問題はないという説明でもあり、これは円安容認発言ともとらえられた。そもそも日銀の異次元緩和のシナリオライターは安倍政権であり、それは2012年11月のアベノミクス誕生が発端である。そのアベノミクスで動かしたのが、為替市場であり、急激な円高調整とこの円安も背景とした株高が演出された。円安により物価がさらに押し上げられる格好となった。

これについては異なる見方もある。9月10日の講演で岩田副総裁は、「円安が物価上昇をもたらすという関係は、必ずしも成立していない」、「現在の物価の上昇が、単に円安化によってもたらされたものではなく、「量的・質的金融緩和」に、それ以前の金融緩和政策にはなかった物価を押し上げる力があるためであるということを示唆しています」と指摘していた。どうやら何か見えない力、ジュダイのフォースのようなものが働いていたらしいが、黒田総裁と岩田副総裁の円安による影響についての見方は微妙に違っているようにも思える。

それはさておき、いまのところは日銀のシナリオ通りということになろうか。しかし、ここにきて日銀の描くシナリオに少し狂いが生じてきた。4~6月期の景気の落ち込みが予想以上に大きくなり、7~9月期の回復が思ったほどではないとの見方である。そうなると秋以降の物価の上昇シナリオも修正を迫られる可能性が出てくる。

ここでの追加緩和はしたくない。まだ戦力は温存し、打つならばバズーカ砲でなければならない。そこで金融緩和をせずとも同様の効果が出る手に打って出てきたとの見方もできる。そのひとつが黒田総裁の円安容認発言であり、さらに9日の国庫短期証券の日銀の買入れ時のマイナス金利の発生であったのかもしれない。ただし、マイナス金利に関しては意図的に発生させたというより、市場の需給の状況を見て、やむを得ずマイナス金利も受け入れた格好であったと思われる。しかし、結果としてはマイナス金利を容認とも市場参加者の目には映る。

ECBのマイナス金利と今回の日銀の買入れでのマイナス金利の発生は別物ではあるが、マイナス金利そのものによる市場へのインパクトは追加緩和によるものと似たものとなる。追加緩和で円安にせずとも、タイミング次第では口先介入でも円安にさせることは確かに可能である。このあたり、黒田総裁は元財務官であったことを考えれば、そのタイミングと効果を意識した可能性もある。今日11日の首相と黒田日銀総裁の会談の内容、夜には黒田総裁がWBSに生出演するそうで、その際の発言内容も注意する必要がある。

円安ドル高にはもう一方のFRBの動向も当然ながら材料視される。こちらも憶測ではあるが、イエレン議長がそれとなく手を打ってきた可能性がある。サンフランシスコ連銀がまとめた調査リポートによると、投資家が金利上昇を過小評価している可能性があるとの指摘があった。連銀には多くの調査員もおり、いろいろな見方もあろう。なぜこのレポートが注目されたかといえば、イエレン議長がもともとサンフランシスコ連銀の総裁であったためである。つまり議長のお膝元から利上げに備えろとの論文が発表されていた。むろん、この論文に議長はノータッチだったかもしれない。しかし、利上げ時期については言質を与えず、ハト派とタカ派のバランスを取るような議長のスタンスではあるが、この論文が意外にFRBのスタンスを表している可能性を市場では意識した可能性がある。つまり出口に向けて地均しを始めていると。

日銀の結果としての疑似緩和とFRBの地均しについては、あくまで市場の思惑に過ぎないかもしれない。しかし、そこには日銀とFRBの姿勢が示されているとの見方を完全に否定できるものでもない。日銀のスタンスはまだ緩和政策を続けることであり、FRBは出口を意識した政策に転じている。このあたりの動向をあらためて感じた結果、円安ドル高の流れが強まったとも言えるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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