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物価連動国債の個人保有が来年1月に解禁

久保田博幸金融アナリスト

財務省は物価連動国債について、これまで認めていなかった個人の保有を2015年から解禁すると発表した。財務省の報道発表によると、「平成28年1月以降に満期を迎える物価連動国債について、平成27年1月より、国債に関する法律(明治39年法律第34号)第2条の2に基づく譲渡制限を解除し、個人等による保有を可能とする」とある。

物価連動国債とは、米国ではTIPS(Treasury Inflation Protection Securities)と呼ばれ親しまれている国債でインフレ連動債とも呼ばれている。英国で1981年に発行が開始されて以降、欧米を中心に発行が増加し、特に1997年に発行が開始された米国が市場規模として最大となっている。

通常の固定利付国債は発行時の元金額が償還時まで不変で、利率も全ての利払いにおいて同一となる。つまり発行後にもし物価が上昇すると、名目ではなく実質ベースでみた通常の固定利付国債の債券価値は低下してしまうが、物価連動債の場合、クーポン利率は固定であるものの、物価上昇に連動して元本が増加するため、インフレの際にも実質的な価値が低下しない債券となる。

これまで日本では物価連動国債は個人への譲渡は認められていなかった。つまり個人が物価連動国債を購入することはできなかった。その障害となっていたとされる課税の取り扱いについて「譲渡所得」を2016年から申告するよう制度を整備した結果、2016年1月以降に満期を迎える物価連動国債について、来年1月より個人の保有が可能となったようである。

ただし、個人向け専用の物価連動国債が発行されるわけではなく、2016年1月以降に満期を迎える既発債を含めて、これまで法人向けに発行されてきた物価連動国債に関して、個人が来年1月から購入可能となる。

14日の日経新聞によると、物価連動国債を組み込んだ投資信託の売れ行きが1年前の4.3倍になったものがあるようで、物価上昇を意識した購入も増えてきているそうである。ただし、物価連動が反映される仕組みを個人がどの程度、理解して購入するかという問題もあろう。個人向け国債も10年変動タイプの仕組みはなかなか理解されにくいとの声もあった。それでも10年債の利回りに連動するものより、物価に連動したほうが個人としてはわかりやすい面もあるかもしれない。

個人向け販売が解禁されていきなり個人の需要が見えるかどうかは未知数であるが、デフレ脱却を掲げたアベノミクスの登場と、それを実行に移した日銀の異次元緩和、そして円安の効果も大きいとはいえ現実に物価も上昇していることから、個人の関心は高いのではないかと思われる。

個人向け専用でないとなれば、販売する証券会社などは途中売却による端債のポジションのことも意識しなければならず、二の足を踏む可能性もある。できれば個人向け専用としての物価連動国債が望ましいように思う。いずれにせよ、個人の将来の物価感も販売額に影響することも考えられることで、日銀を含めて、来年1月以降の個人による物価連動国債の販売実績を注目してくることも考えられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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