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日銀の異次元緩和の効果をYES・NOで検証

久保田博幸金融アナリスト

日銀の量的・質的緩和政策、いわゆる異次元緩和政策が導入されて1年が経過した。ここで日銀の異次元緩和政策による効果についてあらためて検証してみたい。その前に、これを読んでいただいている方々にいくつか質問をしたい。

問1、2013年4月4日の決定した異次元緩和が、急激な円安をもたらしたのか(YES NO)

問2、2013年4月4日の決定した異次元緩和が、急激な株高をもたらしたのか(YES NO)

問3、2013年4月4日の決定した異次元緩和が、国内物価の上昇をもたらしたのか(YES NO)

問4、2013年4月4日の決定した異次元緩和が、国内景気の回復をもたらしたのか(YES NO)

問5、2013年4月4日の決定した異次元緩和が、長期金利の低下をもたらしたのか(YES NO)

まず問1であるが、正解は「No」である。これはドル円のチャートを確認してもらうとわかる。2012年11月に80円近辺から日銀の異次元緩和決定時には100円近くまでドルは上昇していた。そこから昨年末の105円近辺までドルは上昇したが、異次元緩和前の「20円規模」の上昇に比べて、異次元緩和後の円安はわずか「5円程度」に過ぎない。

問題は何故、異次元緩和決定前に20円もドル円は上昇したのかにある。12月の衆院選に向けて政権交代が意識され、さらに安倍自民党総裁がリフレ政策を全面に打ち出したことが円安のきっかけとなっている。何故、これほどまでに急激な円安が生じたのか。それは円が買われすぎていたことの反動が大きい。欧州の信用不安の後退のタイミングも重なり、ヘッジファンドが仕掛けやすい状況にもあった。タイミングを見る限り、この円安は日銀が大量に国債を購入したからもたらされたものではない。

問2であるが、こちらも正解は「No」である。日経平均株価は2012年11月の8600円台あたりから、異次元緩和決定の4月4日には12600円あたりとすでに4000円程度上昇している。そこからさらに5月に15600円近辺と3000円ほど上昇したが、異次元緩和前のほうが上昇幅は大きい。

問1と問2の答えについては当然異論もあると思う。市場は思惑で買って事実で売るものであり、日銀の異次元緩和への期待で買って、予想以上に日銀は答えてくれたので、そこでの売りはなく、さらに買われたのだ、との見方も当然あろう。これはすなわち思惑的(これぞ期待?)な動きであり、日銀のマネタリーベースの大きさなどとは別の次元で動いている。

問3については、円安・株高が物価を予想以上に上振れさせたとするのであれば、こちらの回答も「No」となる。アベノミクス以前から、2013年の消費者物価指数はいずれ0.5%あたりまで上昇するとの見方は出ていた。そこに円安による影響に加え、原発事故の影響もあってのエネルギー価格の上昇などが影響し、前年比1%を超える上昇となった。日銀の異次元緩和によって物価へのマインドが変化したのではなく、円安そのものが物価に対する意識を変化させていた面もある。

問4については円安が輸出企業に恩恵をもたらしたことは確かであるが、輸出そのものの伸びよりも輸入の増加により、貿易収支を悪化させることになった。景気の回復は円安の影響とともに、欧州の信用リスクの後退による欧米経済の回復、さらには中国の景気が底堅く推移していたことが日本の景気回復に貢献している。日銀が国債を大量に買うことで、景気に直接刺激を与えていたわけではない。金利は長期金利含めて低水準を維持しているが、特にゼロ金利政策は昨年4月に始まったわけでもない。

問5については一見、「Yes」に見えなくもない。しかし、現在の日本の金利は政府や日銀の統制下にあるわけではない。中央銀行が大胆に国債を買えば長期金利は低く抑えられるわけでもない。その事例としてテーパリング開始前の米国の長期金利の動きをみればわかる。FRBによる大量の米国債やMBSの購入が続いていても、長期金利は上がるときには上がるのである。ただし、日銀の買入が安心感を与えていることは確かであり、日本国債を売るインセンティブが乏しいなかにあり、日銀の国債買入が金利を結果として押さえ込んでいる。しかし、物価は上がり、景気も回復しているなかにあり、このまま押さえつけていられるかどうか。このあたりは今後の大きな課題となりうる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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