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企業の物価見通しをどう見るか

久保田博幸金融アナリスト

日銀は今回の短観から初めて、企業の物価見通しを発表した。短観の概要発表は4月1日であったが「企業の物価見通し」は4月2日の発表となった。調査方法としては、従来の日銀短観の業況感、事業計画に続く3番目の質問として、1年後、3年後、5年後の「販売価格見通し」と「物価全般の見通し」の2種類について、具体的な上昇(下落)率を聞いた。ただし、これには消費税など制度の変更の影響を除いて回答するよう日銀からの依頼があった。この調査は、黒田総裁が2%の物価目標を掲げる以前の2年程前から議論されてきた調査だと、日銀は説明している。

消費者物価指数をイメージして、前年比の1年後、3年後、5年後に何%になるか、前年比マイナス3%以下から、1%刻みでプラス6%以上まで10段階に分けて回答を求めている。たとえば前年比+1%程度は+0.5%から+1.4%、前年比+2%は+1.5%から+2.4%の範囲をイメージしたものとなる。

その結果は全体の構成比というかたちで集計されたものが発表された。そして、参考として平均値が算出されており、これが企業経営者による期待インフレ率のひとつとして、参考にされると思われる。

このなかの「1年後」の予想の平均値だけを確認してみると、全規模合計がプラス1.5%、内訳として大企業製造業がプラス1.1%、大企業非製造業がプラス1.1%、中小企業製造業がプラス1.7%、中小企業非製造業がプラス1.7%となっていた。製造業・非製造業との区分では見方に違いはなく、大企業と中小企業に物価の予想にかなりの乖離があることは興味深い。中小企業の方が円安などによる物価の上昇により、経営に大きな影響を受けやすくなっていることの現れであろうか。

標本数からみて、一部の市場参加者しか触っていない物価連動債からのBEIなどに比べるとより多くの予想値が集まったものと思われる。ただし、これはあくまで参考値にすぎない。消費者物価指数についてかなり詳しい専門家がすべての企業にいるとも思われず、あくまで参考になるのは現在のCPIであり、そこにその企業の業種などや来年度の経営計画に関わるバイアスなども掛かって数字を出してきたものと思われる。

日銀とすれば、できれば1年後にプラス2%という数字が出れば、これをもって1年前の量的・質的緩和政策は順調に効果を発揮しているとしたかったところかもしれないが、残念ながらそこには届いていない。できれば今回の調査には、日銀が物価目標2%を掲げていることを知っていたかどうかの質問も加えてほしかった。

日銀が2%の物価目標を掲げ、国債を大量に買えば、物価のマインドが大きく切り替わり、それで2年で目標を達成し、デフレ脱却に結びつくとの非常に曖昧さが残る政策に対しては、企業は冷ややかな目で見ていることも、これからは伺える。

目標に届いていないなからといって、追加緩和が必要というのは無謀というか何を考えているのかということになる。QQEが思ったほど効いてないなら、もっと量を出せば良いとの考え方は、ますますリスクを高めることになりかねない。薬が効かないから量を増やすとしても、そもそも薬の効果に疑問があり、劇薬の投与量をむやみに増やすと副作用で危険な状況になりうる。

ただ、日銀としてはあくまでこれは参考数値としての位置づけになるのかもしれない。1.5%という数字そのものよりも、その傾向を捉えることが重要であり、仮に同様の調査が1年前に実施されていれば、この数値でも明らかに経営者の物価のマインドは変化している、との見方も可能になったかもしれない。もちろん日銀が大量に国債を買ったので物価が上がったわけでなく、円安とか電力に関わる影響が大きかったわけではあるが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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