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タヌキ度が低そうなイエレン議長

久保田博幸金融アナリスト

FRBのイエレン議長が就任後初めて開催された3月18日、19日のFOMCは、正常化に向けた道筋をさらに印象づけた格好となった。

予想されていたように毎月の債券購入額を4月からは550億ドルに減額(現状は650億ドル)することを決定した。4月からMBSの購入額を月額300億ドルから250億ドルのペースに、米国債は月額350億ドルから300億ドルのペースに減額する。

テーパリングは淡々と進められており、このままFOMCの会合のたびに債券の買入額を100億円程度ずつ縮小すると仮定し、3月18~19日に550億ドルに減少させ、4月29~30日に450億ドル、6月17~18日に350億ドル、7月29~30日に250億ドル、9月16~17日に150億ドル、10月28~29日に150億ドルを一気に減らしてゼロとすれば、今年の秋のうちに終了することが予想される。

フォワードガイダンスも修正し、6.5%という失業率の数値基準を削除した上で、実質的なゼロ金利解除を検討する際の条件は、労働市場やインフレ圧力など幅広い指標を考慮するとした。すでに1月の失業率が6.6%と数値基準に接近してきたことで、数値基準は取り除いた格好である。これはフォワードガイダンスの強化ではない。むしろ、裁量余地を拡げた格好ともなり、テーパリング完了後は利上げの準備にかかることを示唆しているものとみた方が良さそうである。

これについては、イエレン議長としての初の記者会見において明らかとなった。テーパリングを秋あたりに終了後、利上げまでは相当の期間(considerable period、声明文はconsiderable time)があるとしていたが、その期間とはどの程度なのかとの記者からの質問に対し、その相当の期間とは「Around Six Months」との考えを会見でイエレン議長は示したのである。

つまりテーパリング終了後、半年程度に利上げを準備するであろうとの見通しを明らかにしたのである。これは初の会見ということで緊張してつい口が滑って、自分の想定していたロードマップを答えてしまったとの見方もあるが、もちろん意図的に答えた可能性もある。

この発言を受けて19日のダウ平均は200ドル以上下げる場面もあったようだが、その後は下げ幅縮小しており、市場の動揺も多少落ち着きを見せている。見方によれば、利上げが可能なほど、イエレン議長は今後の景気動向に自信を持っているとの見方もできる(追記、19日のダウ平均は114ドル安。20日は良好な経済指標が意識されて108ドル高)。

FRB議長も人が変われば当然ながら対応も変わる。グリーンスパン元議長は難解な単語や言い回しを用いて煙に巻くことがよくあった。バーナンキ議長もはっきりしたことは示唆せずに曖昧さを残して市場の期待も損なうようなことは避けていた。

これは日銀総裁にも言える。日銀法改正後の総裁としては、速水元総裁は市場を煙に巻くようなことはせず、その分、政府との対立色を強めることになった。そのあとの福井元総裁は就任後すぐに臨時会合を開き、量的緩和政策をさらに推し進めるなどしたが、国債の買入は増額しないなど、かなりしたたかさもあり、こちらは市場に対しても煙に巻くのがうまかったと思われる。そのあとの白川総裁は福井総裁とはやや対局にあり、真面目さが強く、そのため市場や政府からは緩和が足りない等の批判も強まった。

この中銀総裁の煙に巻く能力は、失礼を承知の上で、タヌキの化かし合いにも似ていることでタヌキ度とも言えるものではなかろうか。中銀トップはタカ派とかハト派とかではなく、このタヌキ度が重要なもののひとつとなる。その意味で現在の黒田日銀総裁は極めてタヌキ度が高いように思われる。それに対してイエレン議長はタヌキ度は前任者などに比べて低いのかもしれない。

このあたり今後のFRBの舵取りとそれによる市場の反応にも多少なり影響を与えてくると思われる。ちなみにこれはひとつの中央銀行と市場との対話能力とも言えそうで、その意味ではタヌキ度はある程度必要かもしれない。しかし、個人的にはタヌキ度が高いと曖昧さという意味合いからも多少の不安要素もあり、高いより低い方が良いように思っている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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