米雇用統計とテーパリングの行方
3月7日に米労働省が発表した2月の米雇用統計によると、非農業雇用者数は前月比17万5000人増加となり、予想の15万人増前後を上回った。非農業雇用者数とは変動の大きい農業部門を除いた労働者の増減を表す。NFPとも呼ばれているが、これは「nonfarm payrolls」を略したもの。「nonfarm payrolls」とは、非農業部門の事業所の給与の支払い帳簿のことであり、これをもとにして集計される。
労働統計局が作成する雇用統計で非農業部門雇用者数にカウントされるには、毎月12日を含む週の給与支払いを受けていなければならない。この週に吹雪で労働者が自宅待機を余儀なくされて無給となれば就業者とカウントされず、調査結果に影響が出る可能性があった(一部ブルームバーグの2月15日の記事より引用)、この週(2月9~15日)も米東部が暴風雪に見舞われ、このため悪天候による影響が危惧されて、事前予想もそれを見越したものとなっていた。実際に2月の週平均労働時間は2011年1月以来の低水準となっていたようである。
ところが発表されたNFPの17.5万人増というのは、悪天候下による数字としてはかなり強めの数字とも言える。天候による影響が出ていなければ、さらに上積みされていた可能性もある。さらに12月の非農業雇用者数は7.5万人から8.4万人に、2014年1月は11.3万人から12.9万人にそれぞれ上方修正されていた。
家計調査に基づく2月の失業率は6.7%と、5年ぶりの低水準となった前月の6.6%から上昇した。0.1%の上昇とはなったが、FRBが目安としている6.5%近くにいることも確かである。
この2月の米雇用統計の数字を受けて、3月7日の米国市場でドルや株は買われ、債券は下落した。外為市場でドル円は一時103円台後半に上昇したが、その後103円近辺まで戻り売りに押された。株式市場でダウ平均は前日比30ドル高、S&P500種株価指数は連日の過去最高値更新となったが、こちらも上値は抑えられた。高値警戒もあるが、ウクライナ情勢も気掛かり材料となったようである。米10年債は2.82%まで売られたが、結局、0.05%上昇の2.79%となっていた。
FRBのイエレン議長は2月27日に行われた上院銀行委員会の議会証言で、「公表された統計の多くが、アナリスト予想を下回る支出を示唆した」とし、「部分的には悪天候を反映したかもしれないが、現時点でその程度を正確に認識するのは困難だ」と語っていた(WSJの記事より)。今回の雇用統計の数字を見る限り、悪天候による影響はあったものの、それ以上に景気回復の勢いが強まっていることを示すようなものとなった。FRBは引き続き、淡々とテーパリングを行ってくることが予想される。
FRBは昨年12月と今年1月の過去2回のFOMCで毎月の債券買い入れを100億ドルずつ減額し、現在の購入額は650億ドルとなっている。12月に米国債の毎月の購入額を450億ドルから400億ドルに、MBSを400億ドルから350億ドルに縮小し、1月には米国債を400億ドルから350億ドルに、MBSを350億ドルから300億ドルに縮小した。
すでにイエレン議長は3月18、19日開催の次回FOMCでも100億ドル減額し、550億ドルとする可能性が高いことを示唆しており、今回の雇用統計もその可能性をむしろ強めさせた。さらにイエレン議長は上院銀行委員会の議会証言において、量的緩和縮小のペースについて「事前に決まった道筋があるわけではない」と断った上で、経済の改善が続き、今のペースで減額を進めれば「資産購入は秋のどこかで終える」との見通しを示した(日経新聞の記事より)。
このままFOMCの会合のたびに債券の買入額を100億円程度ずつ縮小すると仮定し、3月18~19日に550億ドルに減少させ、4月29~30日に450億ドル、6月17~18日に350億ドル、7月29~30日に250億ドル、9月16~17日に150億ドル、10月28~29日に150億ドルを一気に減らしてゼロとすれば、秋のうちに終了することが予想される。